差し込む光が硝子を反射して視界にオーロラが滲む。ぼやけて消えるそれに瞬きをひとつして、それから、ゴロンと転がれば「おはよう」と隣から春の日差しみたいな声。柔らかなシーツに埋もれて「おはよう」と返せば日常が始まっていく。私の大切なもの。全てが夢でも構うものか。二度と手放しはしない。
220725 何よりもプリズムに近い睡魔 / 赤司征十郎
水に電気は流れるのかと、放課後の教室で君が言う。それ今日の理科の授業でやらなかったか? と思ったがすぐに君は「そういえば、知ってる? プールの亡霊の噂」と話題を変えた。ジワジワ鳴く蝉の声、汗ばむ首筋。高い位置で括られた髪を少し揺らして、君はいつも学校の噂を楽しそうに教えてくれる。
220725 エレクトリック・オフィーリア / 赤司征十郎
夢を見てる。赤いベタの夢。ベタは水槽という狭い世界の中でその美しさを翻す。ああ、羨ましい!羨ましい!羨ましい!うらめしい!「おはよう。今日はどんな夢の話を聞かせてくれるのかな」世界でいちばん美しい彼が、私の額に口付ける。彼は光の中を生きている。なにもかも全部が夢なら良かったのに。
220602 まなうらに熱帯魚の光跡 / 赤司征十郎
「あなたのそういうところ嫌い!」切欠は何てことない些細なことだった。彼女の口から出る筈がないと高を括っていた言葉が脳髄に響いて事態の重さを理解する。喧嘩なんて滅多にしないからこそどうしたら正解か分からない。「ごめん」より先に「嫌わないで」が出てしまう僕を君はもっと嫌いになるかな。
220602 だいきらいが世界一下手くそ / スティーブン
「柚宇ちゃん、それ何?」色付いた透明な光の球を通り抜けて、柚宇ちゃんの頬に虹が架かる。空は嘘みたいに青くて太陽は馬鹿みたいに熱かった。汗ばんだ前髪を払いながら柚宇ちゃんは光の球を手の中に握り込むと私の手を取って、それは私の手に入る。「これはね、魂だよ」柚宇ちゃんの手は冷たかった。
220520 光る冒瀆を透明に壊して / 国近柚宇
珍しく一日仕事が休みだと彼が言う。どうして昨日のうちに言ってくれなかったのだろう。「じゃあ今日は一緒にいられますね」と言いながら彼には知られないように美容室の予約を取消した。「水族館かプラネタリウムならどっちが好きです?」問われて少し考える。だって彼と一緒ならどちらも好きだもの。
220520 美容室にも水族館にもついてくる箒星 / 月満伊檻
目が覚めると昨晩は隣にいたはずの彼女の姿が見当たらなかった。触れたシーツはまだ温かく、寝返りを打つと朝日が目に入り込んでくる。珍しく顔を出した太陽を遮るように手を翳せば先日手にかけた女が脳内で笑う。血に汚れたこの手を知られたくない相手は、キッチンで朝食の準備をしているみたいだ。
220520 暗いシーツに朝を注ぐ / スティーブン