ちゃん、今日は何して遊ぼうか」

太宰のその言葉に、向かい合うように太宰の膝に抱えられたは「……今日、ちょっと、疲れちゃって」と歯切れの悪そうに返す。太宰がの髪を梳かし乍ら「うん、じゃあ今日はたぁくさん甘やかしてあげる」と囁けば、は頷いた。もう何度足を運んだか判らないこのホテルが、二人の逢引の場所になっていた。とは云えも太宰も、恋仲になった訳でもなければパートナーでも無い。ただ「相性の良い人」。けれど太宰は常々をパートナーにしたいと考えているし、今日はその心算で来た。しかしはといえばこの六年パートナーを作らなかった。何か理由があるのでは、と疑問を持った太宰だったが、パートナーを作らないのは、太宰も同じだった。パートナーが居なくとも太宰は相手に困ったことは無いし、もあの店のおかげで特別困ったことは無かった。勿論これ迄にも相性の良いDomは居たのかもしれないが、初めて会ったときのことを思うに、パートナーになり得るまでのDomには出会ったことが無いのだろう、と太宰は考えた。故に太宰には自信がある。あるので、いつ切り出そうかタイミングを見計らっていたが、そう急くことでも無いか、との髪に滑らせていた手で、優しくの頬を撫でる。

「ん、」

目を閉じて気持ち良さそうに擦り寄るを、かわいいなぁと眺める太宰。はどうやら本当に疲れているらしく、首がゆらゆらと揺れている。

「眠い?」
「すこし、だけ」
「一緒に寝ようか」

太宰はそう訊きながらソファからベッドへ移動するため、の両脇に手を入れようとしたがの「太宰さんの、お膝が、いい」と云う言葉に動きを止める。「そう?ちゃんのお願いなら聞かないとね」と太宰は笑った。

「寝ててもいいよ」
「太宰さん、退屈になっちゃいますよ」
「でもちゃん眠いでしょう」
「……眠いけど、寝たいわけじゃないです」
「そうなの?じゃあ何か、眠気覚ましになるものがあれば良いのだけど」

如何するかな、と太宰はほんの数十秒考えたところで、一度を膝から降ろし「少しだけ“お座りして待ってて”」と命令した。は本日初めての命令に、素直に「はい」と返し、云われた通り床にぺたんとお座りした。そんなを見て「いい子」との頭を一撫でした太宰は、シャワールームへと足を運び、すぐに戻ってきた。太宰の手には、アメニティの一つである歯ブラシが握られていた。それを見たは何をするのか悟り太宰と距離を取ろうとしたがが立ち上がるよりはやく太宰の「こら、“逃げないの”」と命令がの脳内に響いた。先程と同じくお座りをして不安気に太宰を見るに「いい子」と頭を撫でてやるも、の曇った顔は晴れない。

「歯磨きをすると脳が活性化されて眠気が覚めると云われていてね」
「太宰さんが、私に、するの……?」
「だぁいじょうぶ、優しくするから」

の顎を捕らえた太宰は「はい、“お口開けて”」と命令する。はおずおずと口を開いた。太宰は「いい子」と褒め乍ら、の口内へ歯ブラシを入れていく。柔らかい毛先が歯を優しく撫で、普段自身でするそれと変わらない様子に安堵した。そんなを見て「ちゃんって、お口の中苛められるの、好きだよねぇ」と太宰。が安堵したのも束の間、歯ブラシが上顎を擦り、は身体に電流が走ったかのような感覚がした。次いで舌、舌裏と嬲られる。舌を持ち上げるかのように、やさぁしく奥から手前へと歯ブラシが滑っていく。溢れた唾液が、太宰の指を汚す。太宰からの命令とご褒美のせいなのか、只歯を磨かれているだけなのに、は頭が回らなくなっていた。

「んぁ、あ」
「気持ち良さそうだね」
「あっ」
「ここ?気持ちいい?」

訊かれても喋ることの出来ないは、ただただ太宰からの快楽を受け入れるしかなかった。

「あっ、ぁ、」
「ほら、“イってみせて”」

いつかと同じ命令がの脳に甘美に響く。瞬間、はビクビクと身体を震わせながら絶頂を迎えた。太宰は「上手にイけたね、いい子」と褒めた。それから数十分たっぷりとの口内を弄んだ太宰は口を漱がせるためシャワールームの洗面台へとを連れて行った。そこでも命令が聞けたご褒美だと、今度は太宰の指がの口内を犯し、先程と同じ命令を下され、二度目の絶頂を迎えた。すっかり眠気は覚め、Subspaceに入ったは自力で歩くことも儘ならなくなり、太宰に抱えられてソファへと戻り、また向かい合うように抱っこされた。

「気持ち良かった?“教えて”」
「うん……」
「ちゃんと答えられていい子だね。私と遊ぶの、楽しい?」
「うん……」
「じゃあ、私のこと好き?」
「好き……」
「私もちゃんが好きだよ。私たち、相性が良いと思うのだよね」

太宰はとろけた瞳をしているの背を撫でてやり乍ら云う。「だから、パートナーにならない?」と太宰は懐に入れた、首輪として用意していたネックレスの入った小箱に手を掛けた。ぽやぽやとしているに云うのは少し狡いかもしれない、と思った太宰だが、これは命令では無く提案だしまぁいいか、と一人完結させた。先述の通り太宰には自信があった。女性の扱いには慣れているし、今迄誘いを断られた事も無い。Subspaceに入っているが、太宰のその言葉を聞いた瞬間、我に返ったようにハッとしたのを見て、一瞬驚いたものの、肯定の意が聞けるだろうと太宰の予想は、大いに外れた。

「パートナーには、なりません」

はっきりと告げられ、太宰は小箱をそっと戻した。他人の考えていることなど手に取るようにわかってしまう太宰でも、こればかりはわからなかった。が断る理由が見つからないのだ。パートナーが居れば他のDomの影響を受けにくいし、相性だって良い。今迄接してきて、こうして何度も逢引を重ねて、を傷付けたとも思えない、むしろの望む通りにした筈だ、と太宰は考える。太宰は冷静に、優しい声色で「どうして?」と訊いた。は、一度目を逸らして、迷った末に、もう一度太宰と目を合わせ「だって、太宰さんは、お仕事してるでしょう」と云ったのだ。太宰は、益々わからなくなった。

インシデントナイト