さん!人虎に手作りの菓子を贈ったというのは本当ですか!!!」

扉を壊さんとする勢いで入ってきたのは芥川くんだった。ていうか、何。え、何。何なの。私は執務室に備え付けられた寝台で仮眠を取っていたのに。今敦くんと結婚式を挙げるっていうめちゃくちゃ幸せな夢を見てたのに。誓いの接吻ではにかみながら私のベールを上げる敦くん可愛かったなぁ。

「…………今何時だと思ってんの」
「深夜三時です」
「私、四徹目なんだよねぇ」
「それより人虎に手作りの菓子を贈ったというのは、本当ですか」

こいつ人の話聞いてねぇな。

「本当です。クッキー作った」

まぁ作ったのは殆ど中也だけど。そんなことより私は眠いんだよ。寝かせろよ。

「何故!僕には無いのですか!」
「まじでうるせぇ……」

あっいけない眠すぎて口が悪くなっちゃった。

「人虎に作って僕には無いというのは如何かと思います」
「あーはいはいわかったわかった。今度作ってくるからほんと寝かせて」
「云いましたね!その言葉、違えることがありませぬよう」
「はいはい」


***

けたたましく鳴る時計を止めて、何だか寝た気がしないなと思う。もともと眠りは浅いほうだけど、なんか、芥川くんが夢に出てきた気がする。人虎とかお菓子とか手作りとか云っていたような。まぁいいか。夢だし。と、自己完結したところでメールの受信を知らせる音が鳴った。差出人は芥川くん。メールしてくるなんて珍しい。

「なになに……それは夢ではありませぬ。……さんは僕に手作りの菓子をくださると約束しました………………え……こわ……」

添付ファイルがある。厭な予感がする。予感は中る。それは音声ファイルで眠そうな私が「はいはいわかった。今度作ってくるからほんと寝かせて」と云っているものだった。ていうか芥川くん本当こわいんだけど。




「で、何で俺んとこに来るんだよ」
「だぁって、中也何でも作れるから」
「俺はこれから仕事だ。他をあたれ」
「えぇ……」
「はぁ……。別に手作りじゃなくても手前からなら何でも喜ぶだろ」
「でも手作りを渡すって約束しちゃったしなぁ」
「ちなみに今日は姐さんも任務で居ねぇぞ」
「えぇ……どうしよ……」
「はぁ……。一寸待ってろ」

机に向かった中也が何か書いている。暇なので中也の執務室を物色しよう。エロ本とかあるかもしれない。いや中也は意外と真面目だから仕事場に持って来ないかな。「おい部屋荒らすなよ」おっと釘を刺されてしまった。怒ると怖いからな。ソファで大人しく待つとしよう。眠くなってきた。静かだし、中也が紙にペンを走らせる音も心地好いし、昨日は碌に寝ていないのもあるし。このまま寝ちゃおうかな。と目を閉じたところで「」と中也の声。終わったのかな。

「はいはい、起きてますよ」
「目ぇ閉じてんじゃねぇか」
「意識はあるもの。終わったの?」
「あぁ。ほら、これ」

渡された紙には「チャンでもできる!クッキーの作り方」と大きな字で書いてあった。何とかわいらしいクマのイラスト付きだ。材料と調理器具、作り方も丁寧に書かれている。

「すごい!わかりやすい!ありがとう中也!」
「いいか、よく聞け」
「はい」
「ここに書いてあるもの以外は一切、いっっっさい、使うな。材料は勿論、調理器具もだ。ここに書いてあるものしか手前は使えねぇ。いいな」
「了解でございます!」
「よし」

そう言って中也は仕事へ向かったので見送った。さて、私はクッキーを作るとするか。こんなに丁寧に書かれているのだ。これで失敗したら莫迦だろう。幾度も料理を失敗している私といえど、流石にこれで失敗するなんてことはない。




……………はず。だった。

「……真っ黒」

見事に丸焦げだ。この間のように急に生地が緑色になるってことは無かったけど、丸焦げだ。何が駄目だったんだろう。予熱はきちんとしたし、様子も見つつ焼いてた。中也の書いてくれたレシピ通りに作ったのに。中也が間違えた?否そんな筈はない。紙に書かれている時間も温度も、先日中也と、というか中也に作って貰ったときと同じだ。

「流石にこれは渡せないな……」

勿体ないけど屑籠行きかなぁと、真っ黒焦げの物質(とても菓子とは言えない)に手を伸ばそうとしたことろで「さん!!!!!!」と、扉を壊さんとする勢いで入ってきたのは芥川くんだった。何だこれデジャヴか。ていうか何で私がここにいるって知ってるんだ。こわ。

「あら芥川くん」
「その菓子は僕に作ってくれたものではないのですか?!」
「いやぁ、失敗しちゃったから、流石にこんなのあげられないでしょ」
「いいえ。それで構いません。食べても?」
「……焦げの味しかしないわよ」
「問題ありません。中也さんが、彼奴は様子を見つつ焼くがオーブンの温度を変えないだろうから表面だけ焦げる。が、中はきちんと焼けてる筈だから表面を削って食え。と仰っていたので」
「オーブンの……温度……」
「あぁ、それともう一つ言伝を預かっております」
「何?」
「オーブンの温度変えろってことを書くのを忘れてた。前に作ったときはが見てねぇところで設定をいじったから、多分の記憶に無ぇだろうな、ということを後から気付いた。だそうです」
「ほへ〜」
「それは新しい鳴き声ですか?」
「違う!オーブンの温度を変えないといけなかったのね……。でも問題点がわかれば次はもう一人でも失敗しない筈よ!次こそ私が一から十まで作ったクッキーを敦くんに……」
さん」
「うふふ中也より美味しいのを作って敦くんの胃袋を掴むのよ……!」
さん!!」
「なに!!」
「食べても宜しいか」
「……まぁ、表面を削るなら」
「いただきます」

芥川くんがもぐもぐしているところを久しぶりに見た気がする。本当はお菓子じゃなくてもっときちんとごはんを食べて欲しいところだけど、まぁ、今日は何も言わないでおこう。

「……どう?」
「とても、美味しいです」
「貴方……そんな顔も出来たのね」
「どのような顔ですか」
「かわいい顔」

太宰が見たら驚くだろうなぁ、と思いながら私も表面を削ったクッキーを食べる。あ、美味しい。

やつがれにもおかしください