「……疲れました」
俯きながらそう言ったアズールに、
は目を見開いた。更に驚くことにアズールは
の上着の裾を握って離さない。珍しい、と思いながら
は「とりあえず座ろっか」と、ソファに座るように促した。ソファが二人分の重さで沈む。アズールは
の隣にぴったりとくっつき、上着から頑なに手を離そうとしない。
はその手をそっと剥がして、指を絡めた。「最近忙しかったの?」、
が優しくそう問い掛ければ、アズールは「はい」と絡められた指をきゅっと握る。
(か……かわいい……!)
とアズールは幼馴染みで、互いに気心知れた仲だけれど、アズールは全寮制の学園に通っているため、毎日会える訳では無い。学園で何かイベントがあり、一般開放する度に
はアズールの様子を見に来てはいるが、こんなに甘えたなアズールを見たのは子供の頃以来だった。ちなみに今日はカフェ「モストロ・ラウンジ」の年に数回ある一般開放日である。カフェは30分ほど前に閉店、帰ろうとした
をアズールが引き止め、VIPルームへ招いたのだ。
はアズールに恋心を抱いているし、アズールも同じ気持ちではあるが、互いが互いの気持ちを知る前にアズールはナイトレイブンカレッジに入学。はっきり好きだとか恋人になろうとか、そういった言葉を交わしたことは無い。けれど
はわかっている。アズールは好きでなければ、気を許してなければ、こんなふうに誰かに甘えたりしない。アズールも
には弱った姿を見せても大丈夫、と安心している。
「よしよし。あんまり時間はないけど、愚痴くらいなら聞いてあげるよ」
アズールの指が絡みついた手と反対の手で、
はアズールの頭を撫でる。アズールは少しムッとしながら「泊まっていけばいいじゃないですか。僕の部屋のベッド、大きいですよ」と
の手に擦り寄った。
「何言ってるの。私はここの生徒じゃないんだから、バレたらアズくんが怒られちゃうでしょ」
「……ですが、夜も遅いですし、こんな暗いなか帰らせることは出来ません」
「魔法で馬車でも何でも呼ぶから大丈夫だよ」
「馬車が襲われないとは限らないでしょう!とにかく、学園長には僕から話を通しておきますから。……だから……」
「わかったわかった。泊まっていくよ。だから、なあに?」
「……が、……まで……て……さい……」
「え?」
小さくなったアズールの声に
は耳を寄せた。先程よりももっと近くなった距離に、アズールは内心喜びながらも顔を赤く染め、今度こそ
に聞こえるように繰り返した。
「だからっ、僕が満足するまで甘やかせって言ったんです!」
は数回瞬きをした後、繋がれていた手を解き、両腕でアズールに抱きついた。「かわいい……っ!」、ソファに倒れ込んだアズールは
のその言葉に反論しようとしたが、
があまりにも慈愛に満ちた目で見ながら唇を重ねてくるものだから、アズールは黙ってそれを受け入れるしかなかった。「ん、……アズくん、舌出して」、
は捕食者の目をしている。
「ぁ、ん……ふ」
「いい子だね、アズくん」
「急に何を……!」
「アズくんが甘やかせって言ったんじゃん。ね、もう一回」
「なっ、んん、……は、」
「ん、いつも頑張ってて偉いね」
「アズくんは努力しててすごいよ」「いつも完璧だね」「かわいいね」「とても優秀だね」、
の口からアズールを称賛する言葉が止まらない。ついでに
のキスも止まらなかった。アズールは褒め言葉に満更でもなさそうな顔をしながらも「も、もう結構です……!」と
の口を抑えた。
はそれに一瞬不満気な顔をしたが、アズールの手を外しながら「なんで?嫌だった?」と眉を下げた。
「いえ……、嫌というわけでは……」
「ならいいじゃない」
「ですが……、僕たちは恋人でもないのに……」
「私はアズくん好きだよ。アズくんも私のこと好きでしょ」
答えは解り切っている、とでも言いたげな
の問いかけにアズールは目を逸らしながら「……それは……そうですけど……」と小さく答えた。
は「じゃあ何も問題ないね」と再びアズールに口付ける。
「ん、……はぁ、……アズくん、かわいいね」
は先程と同じ、捕食者の目でアズールを見下ろす。そういえば
はどこぞの双子と同じ、ウツボの人魚だったなとアズールは思い出す。ウツボはタコを捕食するのだ。
労りは甘やかに