まだ店を開けて間もない頃で、お客さん来てくれるだろうかとか美味しいと言って貰えるだろうかとか、そんなことばかりを気にしてソワソワしていたときだ。カランコロンと軽快なベルの音と共に彼は店に入ってきた。綺麗な人だなと見惚れる私に、彼は「こんにちは」と微笑むと、ショーケースに目を向ける。私は「こんにちは! いらっしゃいませ!」と慌てて挨拶を返した。今日のお客さんは彼で三人目だった。

「どれも美味しそうですね」
「ありがとうございます」
「辛口の赤ワインに合うものはありますか?」

 背の高い彼にショーケースは少し低かったようで、身体を屈めた彼がこちらを見上げて首を傾げた。
 私は「辛口のワイン……」と繰り返して、今日店に出しているものの中に何かあったかな、とショーケースに目を滑らせる。甘さ順で並べたチョコレートの一番端、一番苦いものを指して「こちらはいかがでしょう?」と提案した。

「当店では一番苦味のあるビターチョコレートなんですけど、中に未熟な群青レモンで作ったソースが入っていて、ほんのり酸味もあります」
「良いですね。ではそれを五個と、そちらのミルクチョコレートも五個、頂けますか?」
「はい。ありがとうございます!」

 彼の注文通りの品を箱に入れ「ビターチョコが五個、ミルクチョコが五個で、お間違いないですか?」と箱の中が見えるように少し傾ける。彼が「はい」と頷いたのを確認して、箱を閉じて袋に入れてからお会計をする。まだレジの操作に慣れない私を見て、彼が「ゆっくりで構いませんよ」と笑った。私はピッタリ貰ったお金をレジにしまう。彼の前に来たお客さんのときも、お会計で待たせてしまったのを思い出した。

「店主が初々しくて可愛いと噂を聞いたのですが、本当ですね」
「す、すみません……まだ色々不慣れで……」
「なぜ謝るのです? 白百合のように真っ白なその初々しさが可愛らしいのに」

 箱の入った袋を受け取りながら彼がそんなことを言う。そんなことを言われたのは初めてで、何て返せば良いのかわからなかった。固まる私に、彼は「また来ますね」と微笑むと店のドアを開けた。カランコロンと響いたベルの音に、私は我に返って「ありがとうございました!」と頭を下げた。綺麗な人だったなぁ。