「……好き、ですよ」

 好きか嫌いかと言われれば、好きだ。店を直してくれたのも、ずっとうちを贔屓にしてくれていることも、感謝している。そう言うと、ムルさんは「きみはシャイロックとビジネスライクな関係を望んでいる?」と私を見る。私の手を掴むムルさんの手には力なんて入っていないのに、じわじわと熱を帯びて痛みを感じるような、そんな錯覚を覚える。

「その手を離しなさい」

 いつか見たのと同じ煙と共に、彼が現れる。ついさっきまで鳥が居た場所に、彼が立っていた。ムルさんの手が私から離れていく。ムルさんは楽しそうに、面白いものを見たかのように笑うと「クッキーをありがとう。また来るよ」と店の扉を開けた。去り際に彼に「今夜店に行くから、そのとき今の気持ちを教えて」と言ったムルさんに、彼は溜め息と共に「今夜は休みです」と返すと、店の鍵を掛けた。まだ営業時間だったけれど、久しぶりに会えた彼に、それは頭から消えた。

「……お久しぶりですね、
「あの、私、ごめんなさい」

「私、魔法使いが嫌いだなんて言って、ごめんなさい」と頭を下げた。
 魔法使いに両親を殺されたことは忘れられないし、今でも魔法使いは嫌いだ。けれど、良い魔法使いもいることは知っているし、彼は私の店を直してくれたし、うちを贔屓にしてくれている。違う。それだけなら、会いたいなんて思わない。会わなくたって、仕事は出来るから。ビジネスライクな関係を望むなら、魔法使いが嫌いだと言ったことを、謝ることもしない。だって、気付いてしまったのだ。

「私、シャイロックさんが好きなんです。シャイロックさんが魔法使いだと知る前から」

 顔を上げた私の腰を、彼がぐっと引き寄せた。私の手から、鳥が咥えていた手紙が落ちる。

「自分の中に、まだこんな情があったのだと、驚いているんです」

 彼の声はほんの少しだけ震えていて、それは歓喜のようにも恐怖のようにも思えた。

「あなたに魔法使いであることを知られるのが、私が嫌いだと言われるのが怖かったんです。けれど、あなたの涙を見たら、そんなことはどうでも良くなりました。あなたの涙を拭うのは私でありたいし、あなたの、あなたが作るチョコレートのように甘美な笑顔を向けるのも、私だけなら良いのにと思ってしまうんです」

 ぎゅうと私を抱きしめながら、彼が私の肩口に顔を埋めた。「あなたがムルと話しているのを見て、妬いたんですよ」と。
 いつも上品で穏やかで聞き上手な彼が、大きい子供のように見えて、そういうところを見せてくれたことに胸がじんわりと温かくなった。