「えっ、じゃあずっと鳥に化けてたんですか?」

 沈んでいく夕日を眩しく思いながら、隣に座った彼に驚いた声を上げた。
 今日は定休日だから他の客がいない、だから彼の店に来ないかと誘われたのは朝のことだった。彼が好きとはいえ、魔法使いを好きになったわけではない私に配慮してくれた彼の誘いを無下にできるはずもなく、私は頷いた。
 今日も悪くなかった客足に満足して店を閉めたところで、「箒に乗ってみます?」と彼が迎えに来てくれたのだ。前に、空を飛ぶ魔法使いを見て「いいな」と呟いたのを覚えていたらしい。
 横向きに座った彼が、落ちないようにと私の腰に手を回して、店に来なかった間のことを話してくれた。

「はい。あなたに拒絶されるのが怖かったんですよ」
「拒絶なんて……。本当に嫌だったら、いくらシャイロックさんにお願いされても、取引自体やめてます。あっ、もしかして時々人にも化けてました?」
「ふふ、どうでしょう」

 悪戯っ子みたいに笑った彼が「もうすぐ着きますよ」と言うと、空がどんどん離れていく。
 神酒の歓楽街にある彼の店は、思っていた通りオシャレで、彼の店なのだと実感が沸く。
 エスコートされてカウンター席に着いた私に、彼が「何をお飲みになりますか?」と微笑んだ。悩んだけれどお酒はあまり飲まないし、詳しくないことも伝え、彼に任せることにした。

「そういえば、ムルとはいつお知り合いに?」

 魔法を使いながら手際良くお酒を作る彼に見惚れていたら、そんなことを訊かれる。

「お店が荒らされたばかりの頃、傷心旅行みたいな感じで天文台に行ったんです。泣いてたらパティアさんが声をかけてくれて、それでムルさんとも少しお話したんです」
「そうでしたか。では、ムルはあなたの泣いた顔を見たんですね」
「え、……はい」

 いつもの優しい微笑みのはずなのに、何だか禍々しいオーラが見えるのは気のせいだろうか。
「お待たせしました」と目の前にほんのりと赤いカクテルが置かれた。透き通ったレッドが美しくて、夕日に照らされた彼の瞳を思い出した。

「ときめくルージュのカクテルです」
「素敵な名前ですね。いただきます」

 一口飲めば、甘すぎずほんのり酸味も感じられるそれに「美味しい!」とはしゃぐ。あまりお酒を飲まないけれど、これは飲みやすくて美味しい。好みの味だった。気が付けば空になっていたグラスを、彼が手早く回収する。その所作ですら上品で、見惚れてしまう。

「お気に召したようで何よりです」と彼が私の顎を掬った。そのまま彼の親指で唇を撫でられて、恥ずかしさと擽ったさに、顔が熱くなるのを感じる。

「やっぱり、熱っぽく染まったあなたの唇はとても美しいですね」