「かっ、からかわないでください……」
唇を撫でる手から逃げるように、彼から顔を背ける。「からかってなどいませんよ」と楽しそうな声。
お酒に西のルージュベリーを使っていたらしく、私の唇は赤く染まっていたらしい。鏡が無いから自分では見られないけど。
「あなたの店にも、ルージュベリーを使ったチョコレートがありましたね」
「あ、はい。最近店に並べ始めたんです。この間はムルさんが買っていきましたよ」
「へえ。ムルが」
「パティアさんを怒らせたから、機嫌を取るって言ってました」
そのときのことを思い出して、何だかまたおかしくなってしまって笑みが溢れた。お酒が回ってきたせいもあるのかもしれない。
「は私が好きなんですよね?」と彼が首を傾げた。急にそんなことを、改めて訊かれるのが気恥ずかしくて、でも嘘は吐きたくなくて「はい」と小声で返す。
「私も、ですよ。だというのに、他の男の話を楽しそうにされるなんて、妬けてしまいます」
一度離れたはずの手が、また触れそうになって思わず後ろに身体を引いた。けれど、彼が「逃しませんよ」と私の肩を掴む。近い。距離が、近い……!
「ま、魔法使いって皆こうなんですか?」
「こう、とは?」
「距離が近いというか、スキンシップが多いというか……」
「私以外にもこういうことをされたんですか? あぁ、そういえば、ムルに手を握られていましたね」
「いや、えっと……はい」
溜め息を吐いて呪文を唱えた彼の手に、煙管が現れる。にっこりと笑った彼は「あの男には近付かないほうがいいですよ」と、それを咥えた。花のような香りが漂う。
なんとなく、深掘りしてはいけない気がして、素直に頷いておいた。彼は「いい子ですね」と言うと、折角だからもう一杯どうだと勧めてくる。彼のお酒は美味しいから、ぜひにとお願いした。
「……シャイロックさんは、私で良いんですか?」
グラスや酒瓶が浮いているのを見て、思わずそんな言葉が漏れた。魔法使いは長生きだと聞いた。時間の感覚も人間と違うし、上手くいかないことは人間同士以上にある。
「私、人間だから、シャイロックさんを置いていっちゃいますよ」
自分で言ったのに寂しくなって、それを誤魔化すように笑みを作った。うまく笑えているだろうか。
彼は手を止めると、「ええ。わかっていますよ」と眉を下げて笑った。
「それでもあなたが良いんです。ですから、そのときまであなたの隣にいることを許してくださいますか?」
「……それってプロポーズですか?」
「の都合の良いように受け取ってくださって構いませんよ。ですが、一つだけ覚えておいてください」
止めていた手をまた動かしながら、彼がそっと私の耳に口を寄せた。店内には二人きりなのに、内緒話をするみたいに近付いた彼に、また顔が熱くなる。
「私、愛したものには執着的なんです」