おろしたてのワンピースに、以前プレゼントで貰ったローヒールのパンプス。髪も綺麗に巻けたし、お化粧も上手くいった。家を出る前に念入りに鏡を見て、さっき駅の化粧室でも身なりを整えた。大丈夫、きっとクリスさんの隣に並んでも大丈夫。
待ち合わせ場所の水族館に着けばクリスさんはもう来ていた。辺りをキョロキョロと見回すクリスさんと目が合う。クリスさんはこちらに駆け寄ってくると「
さん?」と首を傾げる。私が「お待たせしました」と言えば、クリスさんは「あぁ、良かった」と私の手を取った。
「いつもと雰囲気が違ったので、人違いだったらどうしようかと」
「へ、変ですか……」
「いえ。すみません、そういうことでは無く、いつも素敵ですけど今日は一層可愛いなと」
「あ、りがとうござい、ます」
「白いベタのように可憐です」とクリスさんが笑う。白いベタはわからないけれど、早起きして頑張った甲斐があったと内心でガッツポーズした。「行きましょうか」と私の手を引くクリスさん。嬉しいな、幸せだな。今日のデートが水族館で良かった。水族館なら薄暗いから、幸せでにやけてしまう顔はわからないだろう。
既にチケットを買ってくれていたクリスさんが受付の人に渡せば「いってらっしゃいませ」と笑顔で見送ってくれた。それに笑顔で「いってきます」と返すクリスさんに倣って私も「いってきます」と返した。どこでもそうだけれど、クリスさんは他人への敬意を忘れない。私はそんなところに惹かれたのだ。
「暗いですからお気をつけて」
「はい」
すっと差し出された手に、自分の手を重ねた。自然とこうやってエスコートが出来るのは、生まれ持った血なのか、クリスさんの性格なのか。きっとどちらもだろう。
七色に光るクラゲや、イルカショーなど、館内を半分ほど回ったところで、時計はお昼を示していた。「食事にしましょう」と巨大な水槽があるレストランへ案内された。そこでも自然と椅子を引いてエスコートしてくれるクリスさんに、様になっているなと感心する。お礼を言って私が椅子に座ってすぐ、クリスさんが少しよろける。「走っちゃダメよ!」と少し遠くで叫ぶ声が聞こえて、クリスさんの足元を見れば小さな女の子がいた。
「わ、おにいちゃんごめんなさい」
女の子のお母さんらしき女性が、こちらへ駆け寄ってくるのが見える。クリスさんは女の子と目線を合わせるように跪くと「こちらこそ周りをよく見ていませんでした」と微笑んだ。
「お怪我はありませんか?」
本物の王子様みたいだなぁ、と私が思ったのと女の子が「おにいちゃん王子さまみたい!」と顔を輝かせたのは同時だった。私の王子様なんだよ、と言うのは流石に大人気ないなと、私も椅子から降りて「大丈夫?」と声をかけた。女の子は「おねえちゃんはお姫さま?」と顔を輝かせた。白いワンピースだからそう見えるのだろうか。自分で肯定するのは何だか恥ずかしくて、けれど女の子の夢を壊すのも悪いなと考えていると、クリスさんが「そうですよ」と言った。
「私のお姫様をエスコート中なんです」
クリスさんがそう言うと、女の子は「わぁ」と嬉しそうに笑った。「絵本でみたの!」とはしゃぐ女の子に、可愛いなとほっこりする。それからすぐ「すみません」と女の子のお母さんが来て、女の子とはバイバイした。
今度は二人で席に着いて、メニューを眺めて気付く。女の子にほっこりしてて気にしてなかったけど、クリスさんの先程の言葉を思い出して、顔が熱くなった。やっぱり、今日のデートが水族館で良かったな。
わたしのおうじさま