耳かきさせてくださいな
細長い棒を片手に、ソファで読書をしていたアズールの隣に腰掛けながらはそう言った。アズールは「耳かき?」と本を閉じて聞き返す。
「はい。これで、耳の中を掃除するんです」
「あぁ、聞いたことはありますよ。でもしたことはないですね」
海の中じゃ必要ありませんでしたし、と続けられた言葉には「学生時代も?」と返した。NRCは男子校。そういう趣味でもなければ、好き好んで男に自分の身体を触らせるなんてことアズールはしない。は自分でやらなかったのか、という意味で聞いたが、アズールは耳かき=膝枕と認識していた。つまり人にやってもらうもの。それはいつかフロイドが監督生に借りたと言って見せてきた、少女漫画の一部から得た知識だった。なので自分でやる、という発想が無いのでアズールは「ええ」と頷いた。
「自浄作用があるとは言われてますけど、やりがいがありそうですね」
「お手柔らかにお願いしますよ」
そう言って眼鏡を外しの膝に頭をのせたアズール。はそんなアズールの髪を撫でながら「あら、膝枕するってご存知なんですね」とちょっと拗ねた。これは何か変な勘違いをしているな、と察したアズールは「フロイドが見せてきた少女漫画とやらではこうしていました」と言う。はそれにほっとした。さっき初めてだと言ったのに、本当に可愛い人だな、とアズールは笑った。
「誰かにしてもらったことがあったら、私その女を地の果てまで追いかけるところでした」
物騒なの発言にアズールは「僕があなた以外に身体を触らせるなんてあり得ませんよ」と目を閉じた。この夫にしてこの妻あり、である。
「ふふ、それもそうですね。アズールさん浮気なんてしませんもの」
「ええ。さんのことしか見ていませんから」
「旦那さまの愛も確認出来たことですし、始めますね」
「はい、お願いします」
カリ、カリとまずは耳の周りを耳かき棒が滑っていく。初めての感覚に、アズールは少しむず痒くなった。「中もお掃除しますね」、耳の浅いところを擽られる。最初はどんなものかと緊張したアズールだったが、慣れれば結構気持ちが良いなと小さく息を吐いた。耳かき棒が少し奥に入る。その瞬間、アズールは今まで感じたことのない、背中がゾワゾワする感覚に「ひぅっ」と声を上げた。そんなアズールには「可愛い声ですね」なんて言いながら動かす手を止めない。
「ちょ、待っ、ぁっ」
「もう少しで綺麗になるので、もうちょっと我慢してくださいね」
無理だ、と思いながらアズールは「あっ、っ」と小さく喘ぐ。「はい、綺麗になりましたよ」とは耳垢をティッシュで拭き取りながら「反対もしましょうね」と言った。これがもう一回……、アズールは恐ろしくなったが、膝枕は悪くなかったので素直に身体の向きを変えた。反対側も同じように、耳の周りから始まって、少しずつ奥へ入ってくる。背中がゾワゾワする感覚、でも不思議と止めて欲しくない。どこか懐かしさも感じる、これが耳かきかとアズールは学んだ。反対側も綺麗になった頃にはアズールは息を切らせていたが、は「やっぱりやりがいがありました」と上機嫌だった。
耳かき、これは危険すぎる。アズールはもう二度とさせまいと誓ったが、「またさせてくださいね、旦那さま」と笑顔のに、誓いは一瞬で崩れ去った。
20200810