いろんな赤司くんを見てみよう!

#とは
文字書きワードパレットを全て赤司くんで書いてみよう、という赤司くん詰め合わせ短編集です。予告なく暴力的な表現や非道徳的表現など出てきます。※は注意。

1 プリンシピオ 2 アルプヤルナ 3 ヤロ・プペン 4 アコルダール








1.プリンシピオ 神様・明け方・走る

家の近くにある神社にお参りをするのが日課だった。それは小さい頃からで、十八になった今でも変わらず続けている。願い事は大したことは無く、一日が平和に過ごせますように、とか、授業で当てられませんように、とか。願いが聞き届けられたのか、今まで大きな事故や病気は無い。今日もいつも通り、昨日も無事に過ごせたことへのお礼と、今日も一日平和に過ごせるように願って、学校へ向かった。今日は高校の卒業式だ。

卒業式を終えて、泣きながら友人や先生に別れを告げた。私は大学進学と同時に、この街を出て行く。最後にもう一度お礼を伝えよう、と神社へ向かった。

「今日までの十八年間、何事も無く過ごせました。ありがとうございます。この街を出ても、どうか見守っていてください」

私はこの街を出てしまうけれど、帰省したときには必ずまたお参りしに来よう、と神社を後にした。
その晩、私は夢を見た。誰かが私を呼んでいる。聞き覚えの無い声。でも、私はその声を知っている気がした。私は声のする方へ走る。「名前 」、私を呼ぶのは、誰。もう少し、もう少しで声の主に辿り着く。そこで目が覚めた。外はまだ薄暗く、丁度日が昇る時間だった。もうひと眠りしようとしたところで、ベッドにもう一人居るのに気付いた。

「静かに」

悲鳴を上げそうになった、寸でのところで、その人が私の口を押えた。綺麗な男の人だった。赤い髪と瞳、和服を着ている。

「……あなた、だれ」

煩い心臓を抑えながら訊けば、彼は「神様」と笑う。意味が分からない。不審者?変質者?とにかく助けを呼ばないと、そう思ったのにうまく声が出ない。「騒がれても面倒だから、今だけ声が出ないようにしたんだ。ごめんね」、謝っているのにどこか楽しそうな彼を睨む。彼は「そんなこわい顔しないで」と眉を下げた。

「毎日、社に来てくれてありがとう。神様っていうのは、信仰する者が居ないと消えてしまうんだけれど、オレは君が信じてくれたからこうして存在出来ているんだ」

恐らく神様、というのは本当なのだろう。でなければ鍵の掛かった部屋に、鍵を壊さず入れる訳が無いし、私の声を奪うことも出来ない。あなたを信じる、何とか口パクで伝えれば、彼は「良かった」と安心したように笑って、私の背中を優しく叩いた。あ、話せる。

「その神様が、何の御用で……」
「君が願ったんじゃないか、この街を出ても、どうか見守っていてください、って」
「……?……つまり……?」
「これからは傍で見守ってるよ」

神様が微笑む。社から出られるのか、とか、私以外の信仰者は居ないのか、とかいろいろあったけれど「この街を出ても、オレはの傍に居るからね」と笑った顔があまりにも綺麗だったので、私は何にも言えなかった。

(2020.02.25)

2.アルプヤルナ 飲み込む・突風・甘い

少女漫画に出てくるような、ハートの形の飴だった。それは惚れ薬の類で、一粒飲み込んで最初に目にした人を好きになる、というものらしい。友人から「これで彼氏出来たんだけど、余ったからあげる」と渡された瓶は、私の机の中で眠っている。
使いたい相手が居ない、と言えば嘘になる。私が密かに想いを寄せているのは、隣の席の赤司くん。でも、それで私を好きになって貰って、それって幸せなのだろうか。


「あれ、赤司くん。今日は部活じゃないの?」
「今日は休みだよ。それより、もうすぐ下校時刻になるけど」

こんな時間まで残ってたのか?と訊く赤司くんに、どうやって赤司くんに惚れ薬を飲ませるか考えてました、なんて言えるはずもなく「ちょっとね」と笑って誤魔化した。赤司くんは「すごく思い詰めた顔をしていたように見えたけど」と眉を下げた。
赤司くんは優しくて、格好良くて、王子様みたいな人だ。誰にでも分け隔てなく接するし、誰にでも好かれる。でもそれは、誰にも理解されないことと同じ。私はもっと、もっと深いところまで赤司くんを知りたい。赤司くんの全てを暴いてみたい。

「そうかな。考え事してたからかも」
「一緒に帰らないか?俺で良ければその考え事、聞くよ」

赤司くんは誰にでも優しい。私にだけじゃない。分かっていても「一緒に帰らないか」という誘いに嬉しくなってしまうのは仕方のないことなのだ。私は二つ返事で鞄を手にした。
とはいえ、「考え事」を話すわけにもいかない。私は「惚れ薬の噂、知ってる?」と靴を履き替えながら赤司くんに訊いた。赤司くんは噂話なんて興味ないかなと私の考えとは裏腹に「知ってるよ」と返ってきた。
噂が出始めたのは最近のことで、見た目はピンク色のハート、何処で手に入るのかは分からない。一瓶に数個入っていて、私のように友人から余ったものを貰い、人から人へと渡っていく。

「お友達がそれで彼氏が出来たって言ってて、本当かなって」
「へぇ。本当なら興味深いけど……。確かすごく甘いんだろう?」
「そうみたい。赤司くんは甘いの苦手そうだから食べれないね」
「苦手そうに見えるかい?」
「うん。違うの?」

赤司くんが私を見て「得意ではないけど」、突風が桜の木を揺らした。花弁が散っていく。桜に包まれた赤司くんが微笑む。

にそれを差し出されたら、俺は飲み込んでしまうだろうね」

(2020.04.03)

3.ヤロ・プペン 声・香り・別れ

香りが違う、と気付いたのは夕食の後だった。それを指摘すれば、ソファに座って食後のコーヒーを飲んでいた彼は「香水の類は付けていないよ」と言う。香水じゃなくて、でも彼の体臭と言うわけでもなくて、何て言ったら良いのか、適切な言葉が浮かばず「気のせいかも」と私も隣に座った。
彼、赤司くんとの出会いは高校一年のときだった。同じクラスで、隣の席になったのがきっかけでよく話すようになった。私の知らないことをたくさん知っている赤司くんの話は面白くて、赤司くんと仲良くなるのに時間はあまり掛からなかった。それから赤司くんが私を好きだと言ってくれて、付き合うことになり、社会人になった今は一緒に暮らしている。
何でもそつなくこなす彼は、意外なことに料理が苦手だ。「料理は調理実習くらいしかやったことがなくてね」と少し恥ずかしそうに、爆発した卵を片付けながら言っていたのを憶えている。一緒に住むようになって、彼の知らなかったところをたくさん知った。彼が二重人格であるというのもその一つだ。私と初めて話したのは今の彼ではなくて、もう一人の方だと言っていた。同棲初日、彼が「君には知っておいて欲しいんだ」と神妙な顔をしたときには一体どんな重大な話なんだと身構えたが「どちらも征十郎くんに変わりはないし、私は何も問題無いよ」と言ったときの、彼の心底安心したような、でもどこか複雑そうな顔は、多分ずっと忘れないだろう。
「気のせいかも」と言った手前、私から言及することは無いけれど、何となく「香りが違う」のはそういうことなんだろうなと思う。

「……気付いているんだろう」
「あ、やっぱりもう一人の征十郎くん?」
「あぁ。久しぶりだね、
「久しぶり。どうしたの急に」
「……と出会ったのは僕のほうが先だった」

そうだね、と返そうとした唇は彼の唇で塞がれてしまった。これは拗ねているな、と薄く目を開けて彼を見る。もう一人の彼が顔を出すのはこれが初めてでは無かった。これも同棲を始めて知ったことだけれど、彼はどちらの彼も結構子供っぽいところがある。そして今私の目の前に居る彼は、普段の彼よりその比率が大きい。

「ん、……拗ねてる?」
「拗ねてない。ただ……」
「ただ?」
「アイツばかりと一緒でずるい」
「どっちも征十郎くんだよ」
「僕は僕であってアイツとは違う。浮気だ」
「ええ……。じゃあ別れる?」
「そうしたら僕がと居られない」
「でしょ。私も別れたくないし」

はぁ、と溜め息を吐いた彼は私を抱き締めて「ずっとこのままなら良いのに」と囁いた。普段の彼と同じ声なのに、何だか別人のものみたい。そういえば、彼は最近仕事が忙しそうだったなと思い出す。もう一人の彼が出てくるタイミングとか基準とか、そういうのは私には解らないけれど、たぶん彼が疲れたときとか、ストレスが溜まったときなのかなと思う。彼は甘えるのがあまり得意では無いから、私は「よしよし」と彼の頭を撫でた。そうすると彼は「……もっと」と猫のように頭を擦り付けてくる。それがたまらなく可愛いのだ。

(2020.05.04)

4.アコルダール※ 足音・耳・一目惚れ

崩壊の足音が聞こえる。
さっきまで聞こえていた叫び声は、もう聞こえない。私はクローゼットの中で震える自分の身体を抱いていた。コン、コン、コン。部屋の扉を叩く音。数分、もしかしたら数秒だったかもしれない、息を潜める。部屋の扉が開く音はしない。この部屋は違う、と思ったのか足音が遠ざかる。私は息を吐いて、クローゼットからそっと外を覗く。良かった、誰もいないみたい。小さな音を立てて扉が開く。その瞬間、腕を引っ張られた。私は声にならない悲鳴を上げる。なんで、どうして、だってさっき、足音は確かに遠ざかったのに。

「捕まえた」
「ぁ……なんで、……」
「簡単なことだよ。わざと大きな足音を立てて、部屋の前から去り、足音を消してまた戻ってきた」

「それだけだよ」、と笑う彼の腕は私の腰を捕らえて離さない。
二時間前に、彼は家へやって来た。そうして私が欲しいのだと言い出し、反対の声を上げた父の目を、彼は手近にあったペーパーナイフで刺した。この男は狂っている。部屋に居る誰もがそう思った。母が「逃げなさい!」と叫んだと同時に私は走り出そうとした。そんな私に彼は「逃げても良いけれど、ご両親は死んでしまうよ」と言ったのだ。それを聞いて逃げられる訳が無かった。それでも両親は「逃げろ」と言ってくれた。彼はそんな両親を冷たい目で見る。恐い。生まれて初めて感じる恐怖だった。震える私を見る彼は、楽しそうに笑う。「まぁ、でも簡単に捕まえてもつまらないし、ゲームをしよう。ただの鬼ごっこだよ。場所はこの屋敷、制限時間は30分」。30分間、彼から逃げ切れたら私の勝ち、捕まれば負け。

「さて、ルールを覚えているね?」

負けたら、「僕のものだ」。彼がうっとりした顔で言う。「……なんで」私たち、数回顔を合わせたことがあるだけじゃない。どうして。そんな意味の私の呟きに、彼が笑う。するり、彼の手が私の耳を撫でる。そのまま首へ、腕へ、そして彼は私の手を取った。私の両手が、彼の手に重なる。彼の手には、温度が無かった。「一目惚れなんだ」、やっぱり、この男は狂っている。

(2020.02.16)