ジェイド先輩の使い魔とお喋りしてたんだけどやっぱり消されるかもしれない

「あっはははは!!!」

その日、ジェイドの家のリビングには笑い声が響いた。キッチンから戻ってきたジェイドは「何笑ってるんです」と三人分の飲み物をテーブルに置いた。慌てるユウとは対照的に、は「ジェイドくんの昔の話聞いてたの」と笑った。ユウはまずい、と思ったが時すでに遅し。

「ほう……」

ジェイドの細められた目がユウを見る。ユウはここに来たことを後悔した。今朝「が会いたがっているので今からうちに来ませんか」と、卒業後に新調したユウのスマホにメールが入っていたのだ。教えていないアドレスにメールがきたことも、自分の仕事が今日は休みなことも知られている、恐ろしくなったユウは「わかりました」と添付されていた地図を頼りにジェイドの家にやって来た。
二人はユウを快く出迎えた。は「ユウちゃんだ~!いらっしゃい」と耳をぴょこぴょこさせて大喜びだった。ユウも女友達が出来て嬉しいし、会いたい気持ちはあったのだ。ジェイドが飲み物を用意している間、はユウにべったりだった。「ジェイドくんの学生時代が知りたい」と言ったに、ユウは自分の知っていることを話した。その中に、いつかゴーストの花嫁に「物騒!」と平手打ちされたジェイドの話があったのだ。は爆笑した。ジェイドは穏やかに笑っているように見えるが、目が語っている。余計なこと喋ってないだろうな、と。

「あー、えっと……さんの学生時代ってどんなだったんですか?」

どうにかこうにか話題を逸らそうと口にしたユウの問いに、は「私魔獣だもん、学校なんて行ったことないよ」と返した。見た目は獣人と変わらないに、ユウはそういえばそうだったなと思い出す。

「すみません、さん普通の女の子と変わらないからつい……」
「いいよぉ。それに、私みたいに人にも獣にもなれる魔獣ってそういないから、よく獣人に間違われるし」
「まぁ、魔獣といってもはちょっと特殊ですからね」

「グリムくんだって人にはなれないでしょう」と言うジェイドに、ユウは今や立派な魔法士となったグリムを頭に浮かべた。

「ユウちゃんにも使い魔がいるの?」

グリムの名前を聞いて疑問に思ったが問う。ユウはそれに「違いますよ」とグリムのことを話した。そこでユウが魔力を持たないただの人間だと知ったは大層驚いた。「可哀想に。困ったらいつでもおいで。ジェイドくんがごはん作ってくれるから」とはユウの頭を撫でた。学生時代にモストロ・ラウンジでジェイドの作ったものを食べたことのあるユウは、その美味しさを知っているけれど対価がこわいので遠慮した。そこでふとユウは、そういえば今ジェイドは何をしているのだろうと気になった。

「そういえば、先輩たち今何してるんですか?」
「アズールが飲食店の経営を始めたので、そこをフロイドと二人で手伝っていますよ」
「やっぱり三人一緒なんですね」
「あの二人と一緒だと飽きませんから」

そう言って笑うジェイドに、ユウは変わらないなと思う。

「アズール先輩とフロイド先輩はさんのこと知ってるんですか?」
「知ってるよ。でもジェイドくん滅多に会わせてくれないの!」

酷いよね、とは頬を膨らませながら紅茶に口付ける。「ユウさんもどうぞ」とジェイドに勧められ、ユウもそれに口付けた。

が僕よりフロイドの方が優しそうだからフロイドと契約したかったなんて言い出すからですよ」

ユウは「……へぇ」と返すので精一杯だった。学生時代、フロイドに良くして貰ったことがユウには結構あった。そういえばフロイドに貸したままの少女漫画、まだ返して貰ってないなぁとユウはぼんやり思い出す。まぁ、確かに、実はヤバい方のウツボなんて噂があったジェイドに比べたら優しいのかもしれない、とユウは思ったけれど言わなかった。こわいので。

「どうせジェイドくんとの契約は破棄出来ないんだから、会ってお喋りするくらい良いと思わない?」
「……そうですね……」
「ほら!ユウちゃんもこう言ってるし、また二人のとこに遊びに行きたい」
「ダメです」
「ケチ!キノコ狂い!飛べないウツボ!」
「ウツボは元々飛べませんよ」
「私だってアズールくんとフロイドくんとお喋りしたい!」
「必要ないでしょう。あんまり聞き分けがないようならユウさんとの交際も今日でおしまいにしますよ」

ヒートアップする二人に、どうするべきかオロオロしていたユウが息を呑んだ。今度こそ消される。どういう意味で消されるかはわからないけど、物理的に消されたら困る。まだ死にたくないユウは「さん、落ち着いて」とを宥めた。「またいつでも遊びに来ますから。ね。私とお喋りしましょう!」。ユウは必死だった。

「うう……ユウちゃんは優しいね」
「ほら、ユウさんもこう言っていますし、友人はユウさん一人いればいいでしょう」
「ジェイドくんのバーカ!もういい!ユウちゃん、一緒に出掛けよ!」

戸惑うユウの手を引いては玄関へ向かう。二人の後ろでジェイドが「帰る時間は連絡してくださいね」と笑っていたけれど、その後聞こえた「帰ったらユウさんも一緒に話し合いですから」の言葉に、やっぱり自分は消されるかもしれない、とユウは泣いた。