ジェイド先輩の使い魔とお出掛けしてたんだけど今度こそ消されるかもしれない

「これ可愛い〜!」
「こっちも似合う!」
「次はこれ着てみよ!」

ははしゃいでいた。可愛い、似合う、こっちはどうだと言いながらユウの手を引いて。ユウも女友達と買い物なんて久しぶりなので楽しいなと思いながら、手を引かれるままについて回った。洋服に靴にコスメ、一通り楽しんだ二人はケーキが絶品と噂のカフェで休憩することにした。

「はー!楽しい!ユウちゃんがお友達になってくれて本当に嬉しい」
「私も女の人のお友達が出来て嬉しいです」
「お友達いないの?」
「職場に女性の人はいますけど友達というか、知人って感じで」

こんな風に一緒に買い物したりケーキを食べたりするような仲じゃないんです、とユウは苦笑いを溢した。「職場の人は優しい?」と訊くに、別にいじめられているとかそんなことは全くなく、むしろ仕事面では面倒を見てもらっているし、元々社員同士の繋がりが希薄な職場だということをユウは説明した。は「そっかぁ。でも困ったらいつでも言ってね」と笑う。

さんって、なんでジェイド先輩と契約したんですか?」

こんなにいい人が、お世辞にもいい人とは言えないジェイドとなぜ、と疑問に思ってユウは訊いた。はケーキをつつきながら「弱ってるところをジェイドくんに拾われたの」と話し出す。

「ジェイドくん性格最悪だから絶対契約しない!って思ってたんだけど、主人としては申し分ないくらい強くて、何だかんだで契約しちゃった」
「やっぱり主人って強い方がいいんですか?」
「うん。他の種族は知らないけど、私は主人の体液で魔力補給するの。ジェイドくんの唾液とか血液とかがごはんってことね。だから、自分より弱い人だとお腹いっぱいにならないんだよね」
「ジェイド先輩とキスしたり、血を飲んだりするんですか……?」
「血はあんまり飲まないけど、キスはするよ。お腹いっぱいだって言ってるのにしつこいときあるけど」
「ジェイド先輩って……なんていうか、ヤバイじゃないですか」

ユウは、ジェイドと一緒にいて大丈夫なのか、主人という立場を利用してに理不尽に接しているんじゃないかと心配になった。何となくユウの言いたいことを察したは「まぁ、ヤバイよね。私初めて会ったとき足折られたし」とケラケラ笑う。ユウは笑い事じゃないのでは、と改めてジェイドの恐ろしさを感じた。

「でもね、ジェイドくんすごい甘やかしてくれる」

「あと結構寂しがりなんだよ」と内緒話をするかのように囁いたに、ユウは驚いた。あのジェイドを寂しがりなんて言うのは、この世でくらいじゃないだろうかと。それとも、ジェイドがそれほどに心を許しているのだろうか。ユウはそう考えて、少しだけとジェイドが羨ましくなった。もし、元の世界に一生帰れなかったら、ここで自分もそういう人と出会えるだろうかと。が「ユウちゃん?」とユウの顔を覗き込む。我に返ったユウは「あっ、すみません」と残りのケーキを口にした。
ケーキを食べ終え、会計を済ませて二人が外に出た頃にはすっかり薄暗くなっていた。他愛もない話をしながら歩く。「帰ったらユウさんも一緒に話し合いですから」とジェイドの言葉を思い出して、ユウの足取りは重くなった。しばらく歩いて、ユウは異変に気付く。知らない場所にいる。

さん」
「んー、迷い込んじゃったねぇ」
「迷い込んだって、どこにですか?」
「どこだろ。多分、どこでもないところ」

どこでもないところ、とユウが鸚鵡返しにする。は「ま、時間も時間だし、ユウちゃんがいればそうなるかぁ」と呟いた。

「ここはツイステッドワンダーランドだからね、捻れた空間なんてどこにでもあるんだよ。普段は気付かないだけで。で、そういうところには大抵何かあるよ。今回はある、というよりいる、だけど」

の指先がある一点を指す。指の先を目で辿ったユウは悲鳴をあげた。魔物だ。いつかジェイドに再会した日と同じような、大きくて真っ黒な化け物。「あれ、多分人を食ったことがあるね」、怯え震えるユウとは対照的に、は落ち着いた声で話す。

「人の味を覚えた魔物って厄介なんだよね」

何度でも人を襲うから、とは言う。魔物が二人に近づいてくる。

「私を食べに来たってことですか?!」
「そういうこと。魔物って本能で相手が強いか弱いかわかるから、ユウちゃんが魔力を持たないただの人間だってわかっちゃうんだよね」
「どどどうすればっ」
「あれくらい私がどうにでもしてあげるから大丈夫」

の首輪の石が光る。ユウ達の方へ向かってきていた魔物の動きが止まった。ユウが「止まった……?」と魔物を見つめていれば、は「拘束魔法だよ。ユウちゃんはそこから動かないでね」と魔物へ向かっていった。は魔物の身体に躊躇なく手を入れる。グチャ、と不愉快な音が響いた。「えーっと……あ、あったあった」、グチャグチャ、ズルリ、はドクドクと脈打つ臓器のようなものを取り出した。ビシャリ、と黒くてドロドロした液体がの顔と服を汚した。魔物は雄叫びを上げて黒い小さな塊に変化する。

「げ、最悪。汚れちゃった。ジェイドくんに怒られちゃうかな」

魔物の臓器を炎魔法で燃やしながらは溜息を吐いた。ユウはこれなんてスプラッタ映画?と気絶寸前だったけど、何とか意識を保った。それから元いた場所に戻っていることに気付く。ユウは聞きたいことが山ほどあったけれど、が燃やした臓器を思い出して気持ち悪くなったので何も聞けなかった。吐きそう、とユウが口を抑えたところで「随分派手にやりましたね」とジェイドの声。

、顔が汚れてますよ」

の頬に付着した液体を拭いながらジェイドが言う。それは咎めるというより呆れに近かった。「お洋服も汚しちゃった。ごめんなさい」と謝る。ジェイドは「今度新しいの買いに行きましょうね」との額に口付けた。ユウはそんな二人を見ながら、の言っていた甘やかしてくれる、というのは本当なんだなと思った。

「ユウさん、大丈夫ですか?吐きそうですか?」
「……いや……。大丈夫です……、落ち着きました」
「ごめんね、ユウちゃん。目閉じててって言えばよかったね」
「いえ……。助けてくれてありがとうございました」

「そういえば、ジェイド先輩は何でここに?」、ジェイドはにっこり笑った。

「帰る時間を連絡しろと言ったのに連絡はないし、のGPSが急に消えたので逃げたのかと思って、迎えに来たんですよ」

はそれに「あ、忘れてた」と明るい声で返した。ユウは、そういえばジェイドは帰ったら話し合いがどうのと言っていたことを思い出す。やっぱり消されるのだろうか、それならいっそ魔物に食われたほうが良かったかもしれない、ユウは今すぐ逃げ出したかった。

「ていうか契約してる間はジェイドくん私のこといつでも呼べるんだし逃げるわけないじゃん」
の意思で僕のところに帰ってきて欲しいんですよ」

「僕、寂しがりなので」とジェイドが微笑んだ。チラリとユウに視線を寄越したジェイドに、ユウはハッとする。もしかして、全部聞かれていた……?まずい、今度こそ本当に消される、とユウは涙をのんだ。