世話焼きご主人様

、爪が伸びましたね」

「切りましょうか」と爪切りを片手に言うジェイドに、は素直に頷いた。ジェイドはソファから降りるとの足元に座った。「では右足から」と、ジェイドの手がの右足に触れる。はジェイドが自分の爪を切っていくのを、クッションを抱えながら見ていた。パチン、パチン、と自分の一部だったものが床に散っていく。はそれを魔法でゴミ箱の中へ移す。

「ご主人様に跪かれるのって変な感じ」

お世話されるのが嫌なわけではないが、普通は逆だろうとは常々思っていた。ジェイドは基本的に自分のことは自分でやるし、が世話をする余地は無いけれど。

「ペットの世話をするのは飼い主として当然ですよ」

「まぁ、あなたはペットじゃなくて使い魔ですけど」とジェイドが言う。からジェイドの表情は見えないが、世話をするのが楽しい、みたいな顔をしているのだろうなとは思った。ペットと使い魔ってどう違うのだろう、とは考える。飼われているという点では同じ気がする。愛玩目的か否かだろうか、でも使い魔を可愛がる主人もいるし、と考えるに「次、左足出してください」とジェイドがを見上げた。は右足を引っ込めて左足を差し出す。結局答えがわからないは、ジェイドに「ペットと使い魔って違うの?」と問いかけた。

「ペットの定義は愛玩目的で飼われる動物なので、は違いますね」
「でもジェイドくん私のこと可愛がってくれてるよ」
「それはが相応の働きをしているからですよ。愛玩目的のペットに魔物を倒せだとか、仕事を手伝えとは言わないでしょう」
「それもそうか。あ、仕事と言えばジェイドくんが欲しいって言ってた薬草見つけて来たから書斎の机に置いといたよ」

学生時代から魔法薬学が得意なジェイドは、今でもアズールに頼まれて薬を調合することがあった。頼まれずとも趣味の一環で作ることもある。今回ジェイドが作ろうとしているものは趣味の範疇だけれど、材料を集めるのに手こずっていた。この辺りには自生しない、それも夜しかその姿を見せない薬草が必要だったのだ。普段はアズールの店の店員として忙しいジェイドには、当然薬草を探している時間が無い。にもし見つけたら持って帰って来いと言っておいたのだ。

「どこで見つけたんですか?」
「ここからずーっと北の方」
「そんなところまで何しに行ったんです?僕、見かけたら持って来てとお願いはしましたが、命令したわけじゃないんですよ」

ジェイドは仕事場にを滅多に連れて行かない。ジェイドが仕事中、は暇になるので、好きに過ごしている。外に出るなら帰る時間を必ず連絡する、ジェイドとの約束はそれだけだった。だからジェイドはが外で何をしているか把握出来ないときがある。

「わかってるよぉ。暇だったからお散歩してて、偶然見つけたの」
「そうですか。よく見つけて来てくれましたね。あとでご褒美にの好きなパンケーキ作りましょうか」
「本当?やった!」
「はい。そんな遠いところ、次から勝手に行かないと約束できるなら」

「はい、足は終わりです」とジェイドはの隣に腰掛けた。はきれいに整えられた足の爪を眺めながら「わかった、約束する」と返事をした。ジェイドに反抗したって良いことなんて何も無い、はそれをよくわかっている。「いい子ですね。それじゃあ、手の爪も整えましょうか」とジェイドはの右手を取った。爪切りで切った後、ジェイドは爪やすりに持ち替えて、丁寧に形を整えていく。反抗さえしなければ、ジェイドはよくしてくれる。は、ジェイドを主人に選んだのは正解だったなと思った。
爪のお手入れが終わると、ジェイドは「」と腕を広げた。はジェイドの膝上に移動する。ジェイドに背を預けるように抱えられたは「爪がピカピカだ」と手を翳した。

「今日は一緒にお風呂入りましょうね」

ジェイドがの耳を撫でながら言う。ジェイドは世話を焼くのが好きで、それこそおはようからおやすみまで、の面倒を見たがることが多々ある。特に機嫌が良い時はそうだ。欲しかった薬草が手に入って機嫌が良いんだろうな、とは気付いた。主人に世話をされることにすっかり慣れたは「うん。泡風呂がいいなぁ」と返した。ジェイドは「はい」と返事をしながらのお腹に手を回す。ぎゅうと抱きしめられたの尻尾がゆらゆら揺れた。

「今日は全部お世話させてくださいね」

今日も、でしょと思いながらは「はいはい、ご主人様」とジェイドの手に自分の手を重ねた。