星の瞬く、静かな夜だった。ホリデーで帰省中のレオナは、王宮を抜け出して街外れの廃墟の屋根に寝転んでいた。一日中甥の遊び相手になり、やっと甥を寝かしつけたものの、自分自身の寝付きが悪かった。同じベッドで寝たいと駄々を捏ねていた甥は今夢の中だ。起こさないようにそっとベッドから抜け出したときに見た、眠る甥の顔をレオナは思い出していた。まだ何も知らない、幼い子供。いずれこの国の全てを手にする小さな王様。自分には手に入れられないものを、手に入ることが約束されている。レオナは白い息を吐くと、目を閉じた。
「また抜け出してるの?」
コツンと靴の鳴る音と高い
の声に、レオナは目を開けた。「いけないんだ」と小馬鹿にするように笑った
を横目で見ると、レオナは「お前もだろ、王女サマ」と返した。
は「私はもう王室の人間じゃないからいいの」とレオナの隣に腰掛けた。身体を起こして「どういうことだ」と驚くレオナに、
は話し出した。
隣国の王女。それが
の肩書きだった。つい最近、
はその座を肉親に奪われたのだ。
の国では欲しければ奪う、それが普通だ。
は妹に、王女の座を譲れと決闘を申し込まれた。そして
は負けた。負け、王女の座を奪われただけでなく、国を追い出された。
「だから私、もうどこにも居場所がないんだ」
は眉を下げて笑った。「あ、もうただの一般人だから、こんな風にレオナにも会えないね」と。
レオナが初めて
と会ったのも、この廃墟の屋根だった。
がまだ王女になったばかりの頃。
は元々王女の椅子など欲しくなかった。自分には国を治める力なんてない、その椅子に座ったのは亡き母の遺言だったから、
はそうしただけ。疲弊した
は、こっそりこの廃墟へやって来た。ここから見える星空が
を癒してくれた。「隣国の王女サマがこんなとこでサボりか?」、嘲笑うように、
にそう声をかけたのがレオナだった。なりたくもないのに王女になった
と、なりたくても王様にはなれないレオナは、当初口喧嘩が絶えなかった。けれど何度かこうして会ううちに、レオナにはそれまで無かった感情が芽生え始めた。恐れず、強い眼差しでものを言うくせに、時々繊細なところを見せる、そんな
にレオナは惹かれていた。けれど互いに立場というものがある。レオナは第二王子、
は隣国の王女。けれど
はもう王女ではない。これは好機だ、とレオナは口角を上げた。
「居場所なら俺が作ってやる」
するりと、レオナの尻尾が
の腕に巻き付いた。
は目を見開いて「え」と情けない声を上げる。「今日、兄貴からそろそろ見合いでもって写真を見せられたんだ」、この人はどうだ、こっちはと次々に写真を出す兄を思い出しながら、レオナは言った。
は目をぱちくりさせながら聞いている。
「どの女も
には劣る」
「それって……」
「お前が好きだ」、レオナは
の顎を捕らえると、深く口付けた。
の腕に絡まっていたレオナの尻尾が外れ、そのまま腕を滑る。ドレスの裾から入り込んだ尻尾は、
の内腿をぎゅうと締めた。
の身体が跳ねる。「ん、んっ」とくぐもった声を出す
は、レオナの胸板を押すものの、その手も呆気なくレオナに取られてしまった。静かな夜に、二人のキスをする音が響く。
「ぁ、……っ、ま、って」
「待たない。口開けろ」
「ちょ、……んん、……あっ、ふぁ」
の腿を締める尻尾も、繋がれた手も、深く口付ける唇も、レオナの全身が
が好きだと語っていた。
は酸欠になりながらも、今まで感じたことのない多幸感を覚えていた。目の前の男は、本当に自分が好きなのだと
は実感する。唇を離したレオナは、
の目尻に溜まった涙を拭いながら「で、返事は?」と問う。
はなんとか息を整えると「聞かなくても、わか、る、でしょ」と頬を膨らませた。レオナは意地悪く笑う。
「さぁ。俺のキスを受け入れたことしかわからねぇな」
そんなことを言うレオナに、
は少しばかり仕返しをしてやろうと「そんな意地悪言うレオナは嫌い」とレオナを見上げた。その瞬間、レオナの耳がぺそ……と垂れたのを
は見逃さなかった。キスは強引だし、口から出るのは意地悪ばかりなレオナにも、可愛いところがあるじゃないかと
は内心でほくそ笑んだ。それから「嘘だよ。ごめんね」と今度は
から触れるだけのキスをした。
「私も好きだよ。レオナが、好き」
静寂が包み込む劣情