あれから四度目の春がきた。太宰を忘れたことは一日も無かったけれど、会いに行く気はなく、ただ時は流れていった。私の環境も大分変わり、今では部下を持つ立場にまでなった。高層マンションの最上階に住めるくらいだ。今日も普段と変わらず忙しない一日を過ごし、自宅へ帰る。エントランスでロックを解除し、昇降機に乗るためのカードキーを挿す。セキュリティの万全さだけで選んだ住処だったけれど、それは正解だった。自宅にいるときまで気を張りたくない。昇降機の扉が軽快な音と共に開く。先程とは違う、部屋を開けるためのカードキーを取り出したところで、部屋の前に花束が置かれているのに気づく。
「紅弁慶だ」
此処はマフィア内の人間ですら、片手で足りるくらいの人にしか教えていない。そしてその人たちは来る前に絶対一報入れるし、いくらマフィアとはいえ部屋の前まで来るのは難しい。こんなことが出来る頭脳を持っているのは、私の知る限りはたった一人だ。背後で靴が床を鳴らす音がして振り返る。
「やっぱり、私が選んだ方がセンスがあるものになっただろう」
そう云って笑う男のもとへ駆ける。
「うるさい」
私は自ら太宰を抱き締めた。
紅弁慶
「幸福を告げる」「たくさんの小さな思い出」
「幸福を告げる」「たくさんの小さな思い出」