ピピピと軽快な音を立てて鳴る時計を止めて、次に携帯のアラームを止める。自分の携帯を操作した数分後に、薫さんの携帯も鳴り始める。それを手早く止めて、ベッドから出てカーテンを開ける。今日の天気は雲一つない快晴だ。朝日が入り込むと未だベッドにいる薫さんが「んん……」と呻いて布団を頭から被ろうとする。それを制して「薫さん、朝ですよ。起きてください」と声を掛ける。薫さんを起こすことから、私の一日は始まる。
「……まだねる……」
……はず、なのに、薫さんはすんなり起きてくれない。舌足らずにそう言った薫さんは、私の手をどかして頭から布団をかぶってしまった。普段はきっちりとしている薫さんの、こういうところが見られるのは恋人の特権かなと思うけど、最近益々寝起きが悪くなっている気がする。遅刻するほど寝坊したり、私が起こすことに文句を言ったりするような人ではないから、それはまぁ良いのだけど、帰りも遅いし頑張りすぎているのではないだろうか。薫さんは無理をするきらいがあるし、出来ることならこのまま寝かせてあげたい。けど、今日は七時に起こして欲しいと頼まれているのだ。休日なのに随分早起きだなと思ったけれど、言及せず私はそれを了承した。引き受けたからには全うしなくては。
「薫さん、七時ですよ、起きてください」
「……」
「か、お、る、さ、ん!あーさーでーすーよー!」
「……うるさい……」
「朝ですよ、薫さんが七時に起こしてって言ったんですよ!起きてください!」
「……んぅ……まだねる……」
「はぁ……。起きないなら今の薫さん動画に撮って天道さんに「薫さんが全然起きてくれません!」ってメールしちゃいますからね」
「…………なぜきみが、てんどうの、アドレスを知っている」
「あ、起きた。おはようございます」
「おはよう……」
眠そうに目を擦りながら起き上がった薫さんは眼鏡を探している。いつも眼鏡を置いている場所を凝視した後に「無い」とぼそりと呟いた。そういえば、さっき薫さんの携帯を操作したときにちょっと動かしたんだった。
「眼鏡……」
薫さんの視力が相当悪いことは知っている。ここにありますよ、と手渡そうとしたところで、ちょっとだけ悪戯心が芽生えた。いつも起こすのに苦労してるし、たまには、ちょっとくらい、仕返ししたって、いいよね。と、私は薫さんに悟られないように眼鏡を自分の後ろへ隠した。勿論扱いには気を付けて。
「僕の眼鏡、知らないか」
「さぁ。薫さん、昨日の夜いつもと同じ場所に置いてたじゃないですか」
「その場所に無いから探しているんだが……」
「薫さん、眉間の皺すごいですよ。眉毛と眉毛がくっつきそう」
「うるさい。こうしないと見えないんだ」
「ふふ、あはは、薫さん、かわいい」
私が声を上げて笑うと薫さんはその顔のまま、私をじーっと見つめてきた。流石にばれちゃったかな。
「……返せ」
「何のことです?」
「とぼけるな。……その、……起こしてくれたのに起きなかったことは謝る。だから眼鏡は返せ」
「私、何にも持ってませんよ?」
「君以外に誰がいるんだ」
「本当ですよ」
「いい加減にしろ」
「あ、怒った。薫さんこわぁい」
からかう様に言うと、薫さんは口を噤んでしまった。やりすぎたかな。素直に渡そうと眼鏡に手を掛けたところで、薫さんが口を開いた。
「それが無いと僕は何も見えない」
「薫さん目、すごく悪いですもんね」
「……朝起きて、一番に見られる筈のの顔を、見ることもできない」
それまでじーっと私のことを見ていたくせに、視線を逸らしてそんなことを言うものだから、驚きよりも何だかかわいくて、愛おしくて、思わず「はい」と眼鏡を手渡してしまった。ひとつ溜息を吐いた薫さんはそれを掛けて、私を見て、優しく笑ってまた「おはよう」と言う。今日も一日が始まる。
お題箱「薫さんの眼鏡を奪って怒られるはなし」
「……まだねる……」
……はず、なのに、薫さんはすんなり起きてくれない。舌足らずにそう言った薫さんは、私の手をどかして頭から布団をかぶってしまった。普段はきっちりとしている薫さんの、こういうところが見られるのは恋人の特権かなと思うけど、最近益々寝起きが悪くなっている気がする。遅刻するほど寝坊したり、私が起こすことに文句を言ったりするような人ではないから、それはまぁ良いのだけど、帰りも遅いし頑張りすぎているのではないだろうか。薫さんは無理をするきらいがあるし、出来ることならこのまま寝かせてあげたい。けど、今日は七時に起こして欲しいと頼まれているのだ。休日なのに随分早起きだなと思ったけれど、言及せず私はそれを了承した。引き受けたからには全うしなくては。
「薫さん、七時ですよ、起きてください」
「……」
「か、お、る、さ、ん!あーさーでーすーよー!」
「……うるさい……」
「朝ですよ、薫さんが七時に起こしてって言ったんですよ!起きてください!」
「……んぅ……まだねる……」
「はぁ……。起きないなら今の薫さん動画に撮って天道さんに「薫さんが全然起きてくれません!」ってメールしちゃいますからね」
「…………なぜきみが、てんどうの、アドレスを知っている」
「あ、起きた。おはようございます」
「おはよう……」
眠そうに目を擦りながら起き上がった薫さんは眼鏡を探している。いつも眼鏡を置いている場所を凝視した後に「無い」とぼそりと呟いた。そういえば、さっき薫さんの携帯を操作したときにちょっと動かしたんだった。
「眼鏡……」
薫さんの視力が相当悪いことは知っている。ここにありますよ、と手渡そうとしたところで、ちょっとだけ悪戯心が芽生えた。いつも起こすのに苦労してるし、たまには、ちょっとくらい、仕返ししたって、いいよね。と、私は薫さんに悟られないように眼鏡を自分の後ろへ隠した。勿論扱いには気を付けて。
「僕の眼鏡、知らないか」
「さぁ。薫さん、昨日の夜いつもと同じ場所に置いてたじゃないですか」
「その場所に無いから探しているんだが……」
「薫さん、眉間の皺すごいですよ。眉毛と眉毛がくっつきそう」
「うるさい。こうしないと見えないんだ」
「ふふ、あはは、薫さん、かわいい」
私が声を上げて笑うと薫さんはその顔のまま、私をじーっと見つめてきた。流石にばれちゃったかな。
「……返せ」
「何のことです?」
「とぼけるな。……その、……起こしてくれたのに起きなかったことは謝る。だから眼鏡は返せ」
「私、何にも持ってませんよ?」
「君以外に誰がいるんだ」
「本当ですよ」
「いい加減にしろ」
「あ、怒った。薫さんこわぁい」
からかう様に言うと、薫さんは口を噤んでしまった。やりすぎたかな。素直に渡そうと眼鏡に手を掛けたところで、薫さんが口を開いた。
「それが無いと僕は何も見えない」
「薫さん目、すごく悪いですもんね」
「……朝起きて、一番に見られる筈のの顔を、見ることもできない」
それまでじーっと私のことを見ていたくせに、視線を逸らしてそんなことを言うものだから、驚きよりも何だかかわいくて、愛おしくて、思わず「はい」と眼鏡を手渡してしまった。ひとつ溜息を吐いた薫さんはそれを掛けて、私を見て、優しく笑ってまた「おはよう」と言う。今日も一日が始まる。
あさのしあわせはおはようから
お題箱「薫さんの眼鏡を奪って怒られるはなし」