4−1  おやすみ
「わぁ、すごい。目を開けた」

 目が覚めたとき、視界いっぱいに写ったのはその人だった。「見える?」と目の前でその人が手を振る。わたしは数回瞬いて、その人と目を合わせた。見える、そう呟けば、その人は「うん、見えるし聞こえるね」と頷いた。

「きみの名前は?」

! 俺はムル。身体を動かせる?」

 そう訊かれて、身体がひどく固まっていることに気付く。骨の軋むような音がする。足を前に出す。歩く、という感覚を忘れてしまったかのようにその場に崩れ落ちた。ムルはうーん、と唸ると、私に手を差し出した。

「大丈夫? 立てる?」

 わたしはムルの手を借りて立ち上がる。ゆっくり首を動かした。わたしの部屋。何度も読み返していた本が、色褪せて埃をかぶっているのが目に入る。わたしはムルと手を繋いだまま「あれ」と本を指す。

「あれ? あの本?」
「うん。あれ」
「ずいぶん読み込んだんだね。この本が好きだった?」

 ムルが本の埃を払いながら言う。わたしは頷いた。「いつも読んでた」、それしかすることがなかったから。なんでそれしかすることがなかったんだっけ。頭が痛い。視界がぼやけていく。立っていられない。ぐらん、身体が揺れる。ムルがわたしを抱えた。

「おはよう、。数千年の眠りから覚めた感想は?」

 俺に教えて。ムルがわたしを抱えたままぐるぐる回る。そういえば、ムルって名前どこかで聞いたけど、わからない。暗転。最初に戻る。最初って、いつ? ちがう。最初ではない。終わりだ。終わりが、始まったのだ。

「おやすみ、。起きたら一緒にごはんを食べようね!」