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フィガロはその頃、南の国を開拓しながら北の国にもまだ居を構えていた。しばらく帰っていなかった北へ帰ろうと、その道すがらで捨てられている子供を見かけた。
捨てられる子供は珍しくない。雪の積もった大樹のそばに、は横たわっていた。浅い呼吸を繰り返し、身体の至るところが凍傷を起こしている。白い肌は真っ赤に染まり、涙を流したのか睫毛が凍っていた。

「ポッシデオ」

を見下ろしたフィガロが呪文を唱える。の身体は瞬く間に治っていく。真っ赤な肌は白さを取り戻し、凍った涙が溶けて、の睫毛が微かに震えた。
外傷は治ったけれど意識を取り戻さないを見て、フィガロは栄養不足だろうと思いながらを抱え上げた。あまりにも軽いその身体に、がこの寒さのなかまだ死んでいないことにフィガロは驚いたのだった。

***

が目を覚ましたのは二日後のことだった。
窓から差し込む朝日を眩しく思いながら目を開けたに、ベッドの横に座っていたフィガロは「おはよう」と人好きのする笑みを浮かべた。
は数秒固まる。きょろきょろと辺りを見回してから、フィガロに目を戻した。自分の身体を守るようにシーツを引っ張り上げたはか細い声で「……だあれ」と返した。

「そんなに怯えないでよ。別に取って食ったりしないさ」
「……ここ」
「俺の家。俺はフィガロ。きみは?」

、きみ、森で倒れていたんだよ」
「……たすけてくれたんですか?」
「そうだって言ったら、俺はきみの英雄になれる?」

フィガロはそう言うと、の頬に張り付いた髪を払った。はまだ幼気な子供で、フィガロの言葉の意味がわからず不思議そうな顔をするだけだった。それからは思い出したかのように「おとうさんは」とフィガロに訊いた。
フィガロは少しだけ悩んで、隠してもいつかは知られるだろうと「は捨てられたんだよ」と出来る限り優しい声で話した。はまあるい目をさらにまるくすると、消え入りそうな声で、「すてられた」とフィガロの言葉を繰り返した。
フィガロは何か言ってやるべきだろうかと考えて、の頭を撫でながら言った。

「新しいお父さんでも探す?」

それを聞いたは頭を撫でていたフィガロの手をばちんと振り払った。なんでそんなこと、はそう言おうとしたけれど、フィガロの顔を見て、フィガロのそれは冗談ではなくて本気で、本心から言っているのだと気付く。フィガロには何かが欠けていて、にはそれはとても恐ろしいことのように感じたのだ。