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「子供って案外手がかかるんだねぇ」

夜が深くなってきた頃、フィガロが酒の入ったグラスを揺らしながら言う。カウンターの向こうで微笑みを浮かべてそれを聞いていたのはシャイロックで、シャイロックは「おや、フィガロ様が子育てをしているだなんて初耳ですね」とグラスを磨きながら返した。

「この間森に捨てられてるのを見かけてさ、拾ったんだよね」
「ほう。手がかかるというのは?」
「全然こっちの話聞かないの。今多分三歳か四歳くらいだと思うんだけど、騒ぐし暴れるし、もう大変」
「おやおや、それは。ですが子供とはそういうものでは?」
「うーん……まぁ、そうなんだろうけどさ。ちょっと面倒くさくなっちゃって、だから捨ててきちゃった」

カランと氷の溶ける音が響いた。「捨ててきた?」とシャイロックはグラスを磨いていた手を止めた。フィガロは酒を飲みながら、他愛のないことのように話す。

「うん。いや、置いてきたって言ったほうが良いのかなあ。散歩に行こうって外に連れ出して、森の奥に置き去りにしてきた」

「今頃凍えて死んじゃってるかな」と、あまりにも何でもないことのように話すフィガロの話を、シャイロックはただ黙って聞いていた。それが店主としての役目だから。

***

「子供って可愛いねえ」

もうじき夜がやってくる頃、シャイロックが店を開けてすぐにやって来たフィガロは、席に座って早々にそんなことを言った。「オズの気持ちわかるかも」と言いながら、シャイロックが酒を作る様を眺める。フィガロが今話している子供というのが、先日捨てたと言っていた子供のことなのかシャイロックにはわからず、けれど恐らくそうだろうと「先日捨てたと仰っていませんでしたか?」と首を傾げた。

「うん。それがさ、帰ったら家の前にいてね、フィガロ様フィガロ様って何度も俺のこと呼ぶの」
「それで?」

シャイロックは酒の入ったグラスをフィガロの前に置きながら訊ねる。それを一口飲んだフィガロは、はあ、と色のある息を吐くと恍惚とした表情を浮かべた。

「縋るものが俺しかないって、良いなあって」

そう言ってまた酒を口にするフィガロに、シャイロックはただ微笑むだけだった。