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「フィガロ様、フィガロ様!」

よく晴れた日だった。昼頃までベッドに潜ったままのフィガロの身体を、は揺すった。フィガロは「うーん……」と呻くと身体を起き上がらせる。その瞬間を狙っては布団を引っぺがして、フィガロに早く起きろと催促した。

「もうお昼ですよ。シーツ干すんですから、起きてください」
「ええ……もうちょっと良いでしょ。だめ?」
「だめ! ご飯も作ったんですから、一緒に食べましょう」
「わかったわかった。わかったから、腕引っ張らないで」

のそのそとベッドから出たフィガロを確認したは、シーツも剥がすと庭に出た。本当はもっと早い時間に干したかったのに、とぶつくされるを見てからフィガロはダイニングへ向かった。
フィガロは基本的に堕落的だから、家のことをやってくれる小間使いのような、そういう存在がいたら便利だなと当初は考えていた。
は呑み込みが早くて、教えたことは大抵要領良くこなした。は人間だから魔法は使えない。使えずとも家事をそつなくこなすを、フィガロは結構気に入っている。魔法を使えば家事は容易いけれど、が自分の為にしてくれるという事実がフィガロには嬉しかった。便利な存在だと思っていたはもう十六歳になった。が成長していくにつれて、フィガロの心にはもっと別の感情が芽生えてきていた。

、また料理が上手になったね」

お手製の鮮魚のカルパッチョを口にしながらフィガロが言う。はそれにお礼を返すと、自分の食事も進めていく。
は料理が一等得意で、の作るものはどれもフィガロの好みの味だった。こうやってと食事をとるのもフィガロには幸せなことで、些細なフィガロの日常をが多彩に彩っていた。

「あ、そういえばフィガロ様が寝ている間、お客様が来ましたよ」
「客?」
「はい。ええと……確か、キャシーの夫だと言っていました。フィガロ様は寝ているって言ったら、明日また来るって」
「キャシー……」
「お知り合いですか?」

そう訊くに、フィガロは首を横に振った。
はフィガロが魔法使いであること以外、フィガロについてあまり知らない。フィガロはそれを特に必要なことだと思っておらず、にあまり話してこなかったというのもある。けれど今はそれだけではなくなってしまった。との日常を壊したくない、そう思えば思うほど、フィガロはに自分自身のことを話せなくなるのだ。

「明日来たら俺が出るから、は顔を出しちゃだめだよ」
「でもお茶くらい」


圧の強い声に、は「わかりました」と頷くしかなかった。フィガロは「いい子」と微笑むと食事を再開した。

「ああ、それと、今後は来客があっても出なくていいからね」

はそれにどうしてと問いかけたかったけれど、フィガロがもう何も聞くなという目をしていたから、食事と一緒にその言葉を飲み込んだ。