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「フィガロ様、もうお昼ですよ!」

がぐいぐいとシーツを引っ張るも、フィガロが起き上がる様子はなかった。「うーん」だとか「ううん」だとか声を漏らすフィガロを見ては溜め息を吐いた。

「もう、フィガロ様ってば!」
「もうちょっとだけ、だめ? も一緒に寝ようよ」
「だめです! 今日はシーツ干すんですから」
「シーツなら一昨日干したばかりじゃないか」
「そうでしたっけ?」
「そうだよ。忘れちゃった?」
「……忘れてました」

はて、そうだったかと首を傾げたの腕をフィガロが掴んだかと思うと、はベッドの中へ引き摺り込まれる。「わっ」と驚いたを上手く抱きとめたフィガロは「だからもうちょっと。ね、いいでしょ」と甘えた声で言う。そんなフィガロに渋々頷いたは、フィガロを大きな子どもみたいだと思った。

***

北の魔法使いフィガロといえば、その名を知らない者はおらず、冷酷で無慈悲で逆らう者には容赦しないと恐れられていた。

、美味しい?」
「はい! フィガロ様、クッキー焼くのお上手ですね」
「本当? 嬉しいなあ。こっちも食べて。はい、あーん」

そんな北の魔法使いとを窓から覗く者が二人──フィガロの師匠、スノウとホワイトだった。スノウとホワイトは目を見合わせると「あれ本当にフィガロちゃん?」と二人揃って首を傾げた。フィガロが女好きであることは知っているけれど、フィガロとはそれとはまた違った雰囲気を出していた。

「フィガロ様、私もう子供じゃないんですから、自分で食べられますよ!」
「ええー、そんなこと言って、昨日の夜寂しいからって一緒に寝たじゃないか」
「ベッドがひとつしかないんですからそうするしかないじゃないですか!」
「でも、寝てる間ずーっと俺に抱きついてたよ」
「嘘!」
「ほんと」

あははと笑ったフィガロはへクッキーを一枚差し出す。はもう十八歳で、当人は大人だと思っているけれど、フィガロにとっては幼な子とそう変わらない。一瞬顔を引いただったけれど、フィガロが手を引っ込めないのを見ておずおずと口を開いた。
が口に入れようとしたそれを、「わーい、クッキーじゃ」と横から掻っ攫ったのはホワイトだった。

「わあっ、ホワイト様、スノウ様!」
「ほほほ、びっくりしたかのう」
「フィガロちゃんいつの間にこーんなに美味しいクッキー作れるようになったのー?」

フィガロとの間に無理矢理座ったスノウとホワイトは楽しそうに話す。フィガロが「何しに来たんです」と溜め息を溢せば、スノウとホワイトはキャッキャとはしゃいだ。

ちゃんどうしてるかなーって見に来たんじゃよ」
、元気にしとったか? フィガロちゃんにいじめられてない?」
「大丈夫ですよ、ホワイト様、スノウ様。良くしてもらってます」
「俺がをいじめるわけないでしょ。人聞き悪いこと言わないでくれます?」
「えー、でもフィガロちゃんはこわあい北の魔法使いだし心配じゃなぁ。ね、スノウちゃん」
「そうじゃなぁ。、フィガロちゃんにいじめられたら我らに言うんじゃぞ」
「えっと……」
、二人は放っておいていいから、紅茶淹れてきてくれる?」

「ポットが空だから」と差し出されたポットを素直に受け取ったは、キッチンへ向かった。二人分のカップを戸棚から出して、追加で紅茶を作るを確認したフィガロはスノウとホワイトに「で、本当は何しに来たんです」と鋭い声を出した。
スノウとホワイトはフィガロに近付くと、内緒話のように──実際内緒話だった。「そなたに殺された魔法使いの友人という人間が訪ねてきたんじゃ」とフィガロに耳打ちしたのはスノウだった。次いで「あの男をどうにかしてくれと縋られてのお」と言ったのはホワイト。

「心当たりある?」
「殺した魔法使いのことなんていちいち覚えてませんよ」
「そなたはそういう奴じゃったな」
「そんなんじゃちゃんに愛想尽かされちゃうよ」
「はは。あり得ませんよ」

ホワイトの言葉に、フィガロは「は俺がいないと生きていけないんですから」とクッキーを摘んだ。それを聞いた二人も仲良くクッキーに手を伸ばす。フィガロが作ったそれを咀嚼しながら、スノウが独り言のように呟いた。

がいないと生きていけないのはフィガロのほうじゃな」