世間はウインターホリデーに入り、街では帰省してきたのだろう、全寮制の学校の制服を着た子達が目立っていた。ラギーくんもその中の一人で、実家や近所の子供たちには挨拶を済ませてきたから、と夕方私の家に転がり込んできた。
ラギーくんとは恋人だけれど、全寮制というのもありなかなか普段は会えない。手紙のやり取りや電話はするけれど、久しぶりに会えるとやっぱり嬉しいもので、私はきっと家に来てくれるだろうと期待してごちそうを作った。
期待通り家に来てくれたし、ごちそうも美味しいと目を輝かせて食べてくれたし、会えなかった分嬉しさも楽しさもひとしおだった。
「はーっ! 美味しかったっス! ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。お風呂入る?」
「
ちゃん先入っていいっスよ。それとも一緒に入ります?」
意地悪く笑ったラギーくんがそう言ったのに「一人で入る!」と慌てて返した。こういうとき、もっと余裕のある感じに返せたら良いのに。そううまくはいかない。
湯船に浸かりながらやっぱり一緒に入るって言えば良かったかな、なんて考える。あんまり会えないし、会えたときにたくさん触れ合いたいと思うのは私だけなんだろうか。NRCは男子校とはいえ外部の学校と関わる機会はあるし、他の女の子が放っておかないんじゃないだろうか。ラギーくんはかっこいいし可愛いし手癖は悪いけど優しいし。
「
ちゃん? 生きてる?」
考え過ぎて余程時間が経っていたのか、外から聞こえた声に「い、生きてる!ます!」と返して湯船から出た。すこし逆上せてしまった。
髪を乾かさないまま部屋に戻れば、ラギーくんが「こっちこっち」と自分の足元を指した。片手にドライヤーを持っている。ソファに座るラギーくんに背を向けてラグの上に座れば、ラギーくんは楽しそうに私の髪を乾かしていく。
最初は私もちゃんと乾かしてから部屋に戻っていた。あるときたまたま乾かさず戻ったら、ラギーくんが乾かしてくれて、それから時々こうやって忘れたふりをしている。
「自分で魔法で乾かすからいいのに」
これももう何度も言った台詞。ラギーくんは私が忘れたふりをしていることに気づいているだろうけど、いつもやってくれる。
「彼女を甘やかすくらいの甲斐性はあるつもりっスよ」
後ろにいるから顔は見えないけれど、いつもそうやって蜂蜜みたいに甘い声で言うから、ついつい甘えてしまうのだ。
生ぬるい風が髪を通っていく。あたたかな手で髪を梳かれて、やがてつむじにキスをされる。それが終わりの合図。ちょっとだけ寂しくなるとき。
「おわり?」
「おわりっス。ちゃんと乾いたんで」
「もう一回お風呂入ろうかなあ……」
そう言った私の頬を両手で包んだラギーくんが、私の顔をゆっくり上に向けると「一緒に入る?」と私の顔を覗き込むようにして言う。それにちょっとだけ迷って、頷こうとしたけれど、私がそうするよりはやくラギーくんの「冗談っスよ」という言葉が耳に届いた。
「……冗談なの?」
「おれが我慢できないんで勘弁してくださいっス」
ラギーくんは今度は私の額にキスを落とすとソファから立ち上がった。ラギーくんの言葉の真意を聞く前に、ラギーくんはさっさとお風呂へ行ってしまった。
ラギーくんは顔に出さなかったけれど、実家へ顔を出して子供たちの相手もして、それから家に来たのだ。まだまだ育ち盛りで元気いっぱいの子供たちを相手にするのは、帰省帰りの身体では余計疲れるだろう。そのまま実家にいて、家に来るのは明日でも明後日でも、ホリデーが終わる一日前とかでも良かったのに。会いに来てくれたのだ。
「何作ってんスか?」
私もラギーくんのために何かしたい、と夜食にラギーくんの好きなドーナツを作ることにした。もっと長くお風呂に入ってるかと思ったラギーくんに後ろから声を掛けられて、思わず今から鍋に入れるところだったドーナツをパッと手放してしまった。
「あっつ」
「大丈夫っスか?! ごめんおれが急に声かけたからっ」
「大丈夫、火傷するほどじゃないし、平気だよ」
「よかった……」
心底ホッとした息を吐いたラギーくんは鍋の中を見て「ドーナツ?」と一言。私はそれに頷いて「お疲れのラギーくんのためのドーナツ」と返した。
「疲れてるように見えたっスか?」
「ううん。でも帰省してすぐ会いに来てくれたから、ゆっくりする暇なかったでしょ。ラギーくんいつも甘やかしてくれるから、私も何かしたくて……」
「……迷惑?」と見上げれば、ラギーくんは「まさか!」と大袈裟に笑った。
「
ちゃんもお疲れさま。ごちそう美味しかったっスよ。おれの好きなもんばっかで、嬉しかったっス」
するりと私の手からトングを攫ったラギーくんが言う。ドーナツが揚がったら、冷ましている間にラギーくんの髪を、今度は私が乾かしてあげよう。そんなことを考えながら、蜂蜜入りのホットミルクを二人分、用意した。
(こどものように愛に触れて)
title by オーロラ片