は泣き出してしまいたかった。けれど大勢の人に見られてしまう往来で、そんなことが出来るはずもなく、ただその場に立ち尽くしていた。人混みの中へ消えていく、恋人だった男の背中を、ただ見つめていた。やがて背中も見えなくなって、街行く人々が
にぶつかった。
に謝る者、邪魔だと罵る者、無言の者。
は一人一人に対応する余裕などなかった。
「おっと、失礼しました。お嬢さ……
?」
穏やかな声で
に声をかけたのはラスティカだった。
はそれまでただただ男が去った先を見つめていたけれど、ラスティカの声に、やっと上を見た。
「こんな人混みの中、もしかして今からここで舞踏会でも始まるのかな?」
はダンスに誘われるのを待っているわけではないし、舞踏会も始まらない。ラスティカは冗談ではなく、本当にそう思って首を傾げたけれど、
が「……ラスティカぁ……」と涙目になったのを見て、すぐに違うと気付いた。
ラスティカは
の手を取ると、
を人気の無いところへ連れて行った。喧騒から離れた二人を、塀を歩く猫が見ていた。猫が鳴いたのと、
の目から涙が零れ落ちたのは同時だった。落ちた涙がラスティカの手を濡らす。
「振られたの……。あの人、私に散々好きだの愛してるだの言ったくせに」
は涙を溢れさせながら、去っていく男の背中を思い出した。ラスティカは「それは悲しいね」と
の涙を拭った。
「
は素敵だから、きっともっと良い人が現れるよ」
「……ほんとう?」
ぐずぐずと泣く
に、ラスティカは微笑んで頷いた。
の頭を撫でるラスティカに、
は「私のこと、素敵だって本当に思う? 本当に、あの人より良い人がいると思う?」と訊いた。ラスティカは微笑みを浮かべたまま、もう一度頷く。
「……なら、あの人のこと忘れさせてよ」
***
「あっ、あ、……も、そこ、やだっ……」
「おや、嫌だった? ここは僕の指を歓迎してくれているようだけれど」
ぐちゃぐちゃと卑猥な音が響くなかで、ラスティカはゆっくりと
に問いかけた。
の膣内に入れた指で、
の弱いところを突きながら「ほら、今中が締まった」と微笑む。
は確かに自分の中がきゅう、と締まるのを感じた。
「ね、っ……、ラスティカ、…あっ、ひぅ」
「うん、何だい?」
「誰にでも、あっ、……こうやって、っ、するの……?」
ラスティカがほんの少しだけ目を見開いた。指を引き抜かれて、
にはそれさえも刺激になって嬌声をあげる。同時に、
の頭の中にはやってしまった、と後悔が渦巻いた。
ラスティカから見れば、まだ二十と数年しか生きていない
なんて、幼気な子供と同じだ。子供をあやすように、慰めるように、ラスティカは
に優しくする。
はそれが嬉しくもあり、寂しくもあった。
はラスティカにとって、それ以上にはなれないから。
は人間で、ラスティカは魔法使い。ずっと一緒にはいられない。そして、ラスティカはずっと花嫁を探している。だから
はいつもラスティカを忘れたくて、恋人を作る。けれど恋人に振られる度に、
はラスティカに慰めて貰う。それは何という皮肉だろうと
はいつも思っていた。
「僕も長生きだから、いろんなことをしてきたよ」
否定も肯定もしないその言葉を聞いて、
は泣きそうになった。
は、自分とラスティカでは過ごしてきた時間が違いすぎることが悲しかった。
「……、ラスティカは優しいね。誰にでも」
「そういうところが好き」と
はラスティカの首に腕を回して、行為の続きを促した。ラスティカは
の首筋にキスを落としながら、
の中に男根を入れていく。
だって、私にだけ、って自惚れずに済むから。
はラスティカを受け入れながら、そんなことを考えていた。
「……っ、痛くないかい?」
「ん、大丈夫……、っ、……ぁ……」
「泣かないで、
。
は笑っているほうが素敵だよ」
は自分でも何の涙なのかわからなかった。快楽による涙なのか、悲しいからなのか、寂しいからなのか。ラスティカと繋がれて嬉しいからなのか。そっと
の涙を拭うラスティカの指先が優しくて、
はもっと泣きそうになる。
ラスティカは「動くよ」と言うと、
の弱いところを的確に攻めていく。
の涙はますます訳のわからない涙になっていった。
「あ、あ、……あっ、……や、イッちゃ、あっ、っ」
びくびくと身体を跳ねさせた
に、ラスティカは優しく口付けた。
「ごめんね。もう少しだけ相手をしてくれるかい」
動きを止めないラスティカに、
はただ喘ぐことしか出来なかった。ラスティカはもう一度、先ほどよりもずっと優しく
にキスをした。
(どうかやさしくしないで)