白昼夢・養分・輝き
word by るいちゃん

自分を曖昧な存在に感じていた。取り柄がなくて、特技もなくて、何にも持っていなくて、けれどそんな状況を変えようと努力をする気にもなれなくて、何にも出来ない。そんな自分が大嫌いだった。
真っ白で、何にもない世界。目を閉じても白い光が目蓋に突き刺さって、目を開けても、眩しくて明るいのに何にも見えない。ときどきこの何にもない世界に閉じ籠りたくなる。誰にもわたしを見つけて欲しくなくて、誰の目にも触れたくなくて、誰の声も聞きたくなくて。白昼夢みたいにふわふわしていて、居心地が良いこの世界で、わたしはずっと一人きり。

さん、さん」

誰にも見つけて欲しくないと思いながら、本当はそんなの全部建前で、誰かが見つけてくれるのを待っている。誰かの目に触れて良いのだと、名前を呼ばれて良いのだと、わたしは居ても良いのだと言ってくれるのを、待っている。
わたしを見つけてくれるのは、いつも遊真くんだった。そっと目を開けると、遊真くんがソファの背もたれからわたしの顔を覗き込んでいる。
「遊真くん」と白い髪に手を伸ばす。遊真くんの髪は白くて、窓から差し込む光が当たって、ダイヤモンドみたいに輝いていた。わたしはその輝きが好きだった。誰にも、何にも汚されていない、真っ白でうつくしい輝きだったから。

「こんなところで寝てたら風邪ひくぞ」

くるくると遊真くんの髪を弄ぶわたしの手に、遊真くんが指を絡めながら言う。わたしの第二関節に遊真くんの指があたったかと思えば、それがほんの少し下にずれて、指の付け根と付け根が重なって、ぎゅうと握られる。恋人みたい。
「遊真くん」と呼べば、遊真くんは「なに?」とやさしい、やさしい、慈愛に満ちた微笑みで返してくれる。その微笑みが養分になって、わたしの心を満たしていく。

「わたしのこと好き?」
「好きだよ」
「ほんとう?」
「ほんとう」
「わたし、何にも持ってないよ」

こんなこと言ったって、困らせるだけなのに。わたし、そんなことないよって言われるのを期待してる。世界が嫌い。そういう自分の嫌なところが、浮き彫りになるから。ずっとあの白昼夢みたいな白い世界にいたいと思いながら、やっぱり一人は寂しくて、そうやって矛盾した厄介なものをずっと抱えている。でもそれを手放せなくて、そうやって厄介なものを抱えていたほうが安心できるから。

「何かを持ってないと、好きになったらだめなのか?」

遊真くんはそう言うと、繋いでいた手を離した。それをすこし寂しく思いながら、わたしは「何か持っているほうが、魅力的じゃない?」と返す。遊真くんはうーんとすこし考えた後に「おれは」と言葉を紡ぐ。やさしい声で。

「おれは、さんだから好きなんだけど」

遊真くんは「それじゃあだめなのか?」と首を傾げた。そんなことを言って貰う資格、わたしには無いのに。そんなことを思いながら、わたしはずるくて醜いから、「ほんとう?」と何度も愛を確かめようとしてしまう。

「ほんとう」
「じゃあ、どのくらい好き?」
「風邪をひいてほしくないくらいには好きだな」
「それってどのくらい?」

さっきまで繋がれていた手が、今度はわたしの額に触れる。わたしの額にかかった髪を払った遊真くんは、身を乗り出すとそこにやさしく口付けた。

「すごく好きってこと」

(DIAMOND)