お揃いの赤いリボンを着けた二体のテディベアが仲良く並んでいた。以前来たときには無かったそれに目をやれば、彼女が「あ、それねぇ」とケーキをテーブルに置きながら話し出す。
「この間従兄弟のお姉ちゃんの結婚式で、引き出物で貰ったんだ」
「可愛いね。引き出物ってカタログギフトとかお皿とかだけじゃないんだ」
「みたいだね。でもぬいぐるみは不評らしい」
「え、そうなの?」
「人によるだろうけどね。私は好きだから、パパとママが私の部屋に置いていいよって」
彼女の部屋には大きなクマのぬいぐるみから小さめのヒツジやゾウのぬいぐるみなんかも置いてある。彼女が拗ねたときや不機嫌なときにクマのぬいぐるみを抱きしめるのを知っている。
「ふわふわしてて可愛いよね」と今度はお茶を淹れてくれた。それにお礼を言って、ケーキと一緒にいただく。彼女のお母さんがお菓子作りが好きらしく、彼女の家に来るといつも美味しいケーキをご馳走してくれる。
「尋くんもふわふわしてるから好き」
「尋くんもしかしてぬいぐるみと同列?」
「ぬいぐるみのほうが上」
「マジかぁ……じゃあもっと頑張らないとなぁ」
「ウソウソ、冗談。好きなものに順番とかないよ。尋くんは尋くんだし、ぬいぐるみはぬいぐるみでしょ?」
ね、と楽しそうに笑いながら、彼女はケーキを口にする。彼女と同じようにケーキを口にすれば、ふわふわのスポンジと甘いクリームが口の中に広がって、それを酸っぱめのいちごが丁度良い塩梅にしてくれる。
「そういえば、ウェディングケーキどんなのだった?」
彼女のお母さんお手製のそれを見て、ふと気になった。以前ネットで見かけた豪勢なケーキを思い出す。洋菓子店の宣伝も兼ねていたそれは何段もあって飾り付けも豪華だった。新郎新婦が笑顔で入刀する映像も流れていたっけ。
「豪華でおしゃれだった! 五段くらいあって、食べられるお花が飾ってあった」
「美味しかった?」
「うん! あ、私が将来結婚式挙げたときはママがケーキ作るって言ってた」
ぴた、と自分の手が止まる。結婚式。自分たちはまだ高校生だけど、彼女は魅力的な女性だし、いつかそんな日が来たっておかしくはない。ずっと自分と一緒にいてくれる保証は無いし、彼女を信用していないわけではないが、他の誰かに心変わりしないとも限らない。
結婚。結婚かぁ。彼女の結婚式の引き出物もきっとぬいぐるみになるのだろうな、とどこかぼんやり考える。
「だから尋くん何のケーキが良いか考えといてね」
いつの間にか空になった皿をテーブルの端に避けながら、彼女がそんなことを言った。思わず「えっ」と素っ頓狂な声を上げれば、彼女も「えっ」と声を上げた。それから彼女の顔がみるみる不安そうな色に染まっていく。
「……私は、これからも尋くんと一緒にいたいって思ってるんだけど」
尋くんは違うんだ、と彼女がクマのぬいぐるみに手を伸ばす。それをぎゅうと抱きしめてクマに顔を埋めた。クマの頭から掠れた声が聞こえる。
「そんなことないよ! でも
ちゃんがこの先心変わりしないとは限らないなって……世の中何があるかわからないし……」
「それはそうだけど……。私はこの先尋くん以上に良い人と出会えると思ってない、し、もし出会えても、好きなのはずっと尋くんだもん……」
「わー! ごめんごめん! 泣かないで」
「一緒にケーキ入刀するんだもん……」
「うん、うん。しようね。
ちゃんがこの先も一緒にいるのが当然みたいに言ってくれたのが嬉しくて、ちょっと動揺しちゃった」
ごめんねと彼女のそばに寄れば、そっと顔を上げた彼女が「ケーキ、ちゃんと何が良いか考えてね」と言う。それに頷いて、彼女の目尻の涙を拭えば、彼女はくすぐったいと笑った。
それからぬいぐるみを元の場所に戻すと、彼女がこちらに両手を伸ばした。二人の間ですっかり合図になったそれに少し笑って、彼女を抱きしめれば「尋くんがぬいぐるみじゃなくて良かった」と呟いた。
「ぬいぐるみだったら結婚できないもん」
その言葉に「そうだね」と笑いながら、彼女のお母さんに何のケーキを頼もうか考えるのだった。
きみと食べたいあのケーキ