そもそもレオナルドがスティーブンの口からの名を聞いたのは、スティーブンが電話口で珍しく慌てた様子で「?」と言っていたからだった。
スティーブンの電話の相手はではなく、最近警部に昇進したダニエル・ロウで、HLPDと何かと関わりがあるスティーブンがダニエルと電話で話すのは珍しくない。耳にタコが出来るほど聞いたダニエルによるライブラへの不満をスティーブンが聞き流していれば、急にダニエルが「おい、! 大人しくしてろ!」と電話から遠ざかった。
とダニエルは同級生で、は昔馴染みの縁もあり時々警察署に出向いては「善良な市民」として情報提供に協力していた。その日も偶々「善良な市民」として警察署に出向いていたに過ぎないが、はどこでもどんな情報でも手に入れようと、ダニエルの電話中にそうっと彼のデスクを覗いていた。しかし怒られたのでこっそりと盗み見るのは控え、堂々と見ることにしたがやっぱり怒られたので大人しくしていた。スティーブンは二人の関係を知らない。なぜがダニエルと一緒なのかとかなぜは警察署にいるのかとか、疑問を浮かべながらもスティーブンの口から出たのは「?」と彼女の名前だけだった。
『何だよ、知り合いか?』
「警部こそ彼女とどういうご関係で?」
『知りたかったらお宅が持ってる△×の情報寄越すんだな』
「性格悪いなぁ」
『その言葉そっくりそのまま返してやるぜ』
「お前ちゃんと飯食ってんのか?」
はダニエルの部下が差し入れで持ってきたドーナツを食べながらその言葉に「食べてるよ」と返した。以前会ったときより痩せたのではないかと言われ、はお道化た様子で「セクハラよそれ」と言ったが、実のところここ最近多忙で、食事といえば手軽に摂取できる栄養ドリンクかゼリーばかりだった。ドーナツですら久しぶりな気がする。
「今晩飯でも行くか?」
「ダニーの奢り? いいね〜」
「勝手に決めんな。稼いでんだろ、敏腕ジャーナリスト」
「精々ドーナツ屋でここからここまでください! が出来るくらいよ」
「わかりづれぇな」
ここからここまでのジェスチャーをしたに、ダニエルが笑いながらそう言った後はダニエルの誘いを丁重に断った。今晩は仕事で会食があるからと。ならまた今度と言ったダニエルには頷いて、ドーナツをもうひとつ胃に入れてから署を出た。大崩落以降、この街に残ったの同級生は少ない。ダニエルを含めても片手で足りるくらいだ。そのなかでも警察という特殊な仕事に就き、この街に骨を埋める覚悟と警察としての矜持を持つダニエルをは尊敬していた。
が警察署を出たのはちょうど昼時で、思い出したかのように腹の虫が鳴る。先程ドーナツを食べたばかりだというのに、いや食べたからこその身体は固形物を欲している。行きつけのサブウェイは昼時で混雑していたが空席が二つほど。窓際の席に座ったはスマートフォンを片手にえびアボカドのサンドウィッチを頬張った。今晩の会食は食事よりも会話が主になるだろう。食べられるうちに食べてしまいたい。
「毎日食べてて飽きないのかい?」と近付いてきた、聞き慣れた声をは一度無視したが、その後聞こえた言葉が弱々しい声にのせられていたから思わず反応してしまったのだ。男に縋られる人生なんて、の人生設計図には描かれていない。そのはずなのに、もう一度やり直したいとの手を掴むスティーブンの手がすこしだけ震えていたから、は気が付いたら「明日なら時間を作れるわ」と、明日また会う約束をしてしまったのだ。