「お昼ごはん、何食べようか?」
「あっ……な……も……す……」
「なす? タコス? あっ、あれ? あのキッチンカーのやつ」
辻くんを見上げれば、辻くんは「そっ……あ、……」と私から顔を背けながら言う。ある程度の距離まで近付ける仲にはなったけれど、面と向かって長い時間話すとか手を繋ぐとかはまだ難しいらしい。けれど私たちは恋人同士なわけで、ちょっとでも前進したいな、とはお互い思っている。なので今日は博物館デートに来たのだ。辻くんの好きな恐竜展で、これなら緊張もある程度紛れるのではないか、と。一通り見終えた頃、腕時計はちょうどお昼を指していた。
博物館の外、入り口付近に出店しているキッチンカーの傍にはタコスと書かれたのぼりが風に揺れている。期間限定で出店しているらしいそれの前には、ちらほらとお客さんが見える。ほとんどの人は博物館の中に併設されているレストランで食べるのだろう。今日はお日様も出てあたたかいし、風もそんなにない。外のベンチで食べるのも悪くないかもと「あれにしよう」と言えば、辻くんは頷いた。
「すみません、二つください」
気前の良さそうなおじさんが「はいよっ、辛さはどうする?」と聞くので、私は中辛を、辻くんは控えめを注文した。本場のものを再現しているらしく、辛さを好みで変えられるらしい。数十分かかると言われたから、他のお客さんの邪魔にならないように近くのベンチで待つことにして、その間に近くの自販機で飲み物を買おうかと言えば、辻くんは「あっ、……俺が、買って、……す……」と私に座るように促した。
「じゃあお願いしようかな。お茶がいいな」
「わかり、……った」
未だに緊張するらしく、同じ歳なのになかなか敬語が外れる様子がない。最近それを指摘したからなのか、頑張ってくれてはいるらしい。正直なところ敬語でもそうじゃなくても、どちらでも良いのだけれど。困る辻くんが可愛くて時々意地悪をしてしまう。まるで小学生の思考回路だ。
辻くんを待っている間にタコスが出来上がったらしく、「お嬢ちゃん!」と呼ばれて取りに行けば、おじさんはどっちがどっちの辛さなのか教えてくれたあとに「まいどあり!」と歯を見せて笑った。繁盛しそうなお店だ。
「はい、辻くんの。辛さ控えめのやつ」
ちょうど戻ってきた辻くんにできたてのタコスを手渡せば、辻くんはお礼と共に私が頼んだお茶を差し出してくれた。
「出来立てで熱いから気をつけてって、お店の人が」
「ん、……っ、」
「ごめん、もうちょっとはやく言えば良かったね」
「あっ、いや、……ごめん」
「ふふ、なんで辻くんが謝るの。美味しい?」
「う、うん……おいしい」
中のレストランじゃなくて、隣に座れるここで良かったかもと思いながら、私も自分のタコスを口にした。おいしい。中のレストランだったら向かい合うから、多分顔を合わせづらいだろうし、手軽に食べられるものも少ないから、余計に緊張させてしまったかも。でもいつかはそういうレストランに行ける日もきたらいいなぁ。
「
、さん、」
もう食べ終えたらしい辻くんに呼ばれて、私も残り少ないタコスを咀嚼してから「なぁに?」と辻くんを見れば、それまで前を見たままだった辻くんと目が合う。すぐに逸らされちゃったけど、顔はこちらを向いたまま。
「き、きょ、う……は、ありがとう」
そう言って辻くんが、いつの間にかミュージアムショップで買っていたらしい小さい恐竜のマスコットを差し出してくれた。展示を見ているときに、私が可愛いって言った種類のやつだ。
「ありがとう! 嬉しい」
大事にするね、と言えば辻くんは小さく頷いた。私も何か買えば良かったなと思ったけれど、次を約束したいから、それは今度にしよう。
これからこういう小さな思い出が増えていって、このマスコットはいつの、あの置き物はいつの、なんて思い出話に花を咲かせるのは、あと数年後の話。
(heart in the pocket / 20220130)