学生の頃から、彼の傍には必ずひとりの女の子があった。
決して付き合っているわけではないと言いつつも彼女の影は必ずどこにでも現れた。

男子バスケットボール部のエース青峰大輝くん。きっと帝光中学校に通っていた生徒で知らない人なんていなかったに違いない。
クラスでも大人しく目立たない存在だったわたしがもちろん空高く輝く太陽のような存在の彼とお近づきになれるはずなんかなくて、毎日斜め後ろの席から懸命に睡魔と闘いながら授業を受ける彼の横顔を眺めるのがとても幸せだった。


高校は志望校のレベルをうんと落として、彼がバスケの推薦で進学するという桐皇学園を受験することに決めた。両親は大いに嘆いたけれど関係ない。
それでも付きまとう彼女、桃井さつきの存在がとてつもなく邪魔で邪魔で仕方がなかった。彼と彼女は世間一般で言う幼馴染という関係で、なんだかんだと反抗的な態度を見せてはいるものの青峰くんにとっても彼女はとても大切な存在なのだということが、嫌でも伝わってくる。


わたしはずっと彼を見てきた。



だから、高校を卒業して大学に進学し、社会人になった今またこうして彼と再会していることがとても信じられないようなまるで夢の中の出来事のようだった。
もちろん彼はわたしのことなんて覚えちゃいない。たまたま就職が決まった出版社でスポーツ雑誌を新しく発刊することにしたので取材に行って来いと送り込まれた先が、彼の所属するバスケチームだったというだけの話だ。


「天上出版のです。本日はよろしくお願いします」

向かい合って座るなり挨拶したわたしに、彼は軽くと頭を下げて「おう、よろしく」と言った。


「えーでは、さっそくですがインタビューを進めてまいります。まずは青峰さんがこちらのプロチームへの所属を決めた切欠を伺いたいのですが…」
「別に特別な理由があるわけじゃねえな。ただ強いチームだったから面白そうだと思ったのと、さつき―――幼馴染が俺にはこのチームがあってるって進めるから決めたっつーか」


インタビューを進めるごとに、どうしても脳裏をちらつく彼女の、桃井さつきの存在に苦い思いが広がる。
どうして彼女がなのかしら、わたしの方がうんと彼のことを想っているはずなのに、どうしてあの子の方が大きな存在になってしまうのかしら――――
どうにか滞りなくインタビューは終了したものの、話の内容はイマイチ記憶にない。





自分でも彼に対するこの執着は異常だと理解している。自分にはないものを持つ彼に対する憧憬なのか、嫉妬なのか、とにかく身を焦がすほどわたしは彼を切望している。
どうすれば手に入るのかしらと考える。どうすれば彼の最上になることができるのかしら――――


「本日はどうもありがとうございました。実りある雑誌が発刊できそうです」

にこりと笑顔を見せてそう言いながら取材に使用したICレコーダーや資料を鞄の中にしまいはじめると、視線を感じて顔を上げた。


「…なあ」
「はい?」
「アンタどっかで会ったことねーか?」
「あはは、その辺によくいるような顔ですからね、もしかしたらその辺ですれ違ってたりするかもしれません」

我ながら馬鹿だとは思う。せっかくのチャンスなのだから、ここで同級生だと把握してもらってこの先縁を繋いでいけば良いものを、彼がわたしなんかを覚えているわけがないきっと人違いだと脳裏で自分が囁く。


「いや、そうじゃなくてなんつーかこう…もっと昔に会ってるような気がすんだよなー。学生んときか?さつきだったら覚えてるかもしれねーな」

顎に手を添えて首を傾けながら彼が唸るように言った。
また登場した憎き彼女の名前に、わたしは引き攣る頬をなんとか堪えるのに必死だった。


つい最近発表された、好きなアーティストのMVがそのときにふと脳裏をよぎった。女性が男性を風呂に沈めて、そのまま最終的に殺めてしまうというものだ。
愛するあまりに彼を自分の中に留めておくためなのか、それとも自分だけのものにならないならという気持ちからなのか、いずれにしてもとても衝撃を受けたことは確かだ。
MVをみた瞬間に浮かんだのが彼のことだった。



人はどうしたって手に入らないものを渇望し焦がれる習性がある。
だからきっとわたしはこんなに彼を欲してやまないのだろう。

願わくば、彼も殺めたいほどにわたしに恋い焦がれてくれますように。

愛する罪