「うわ、結構降ってきた!」
「んぎゃー!酸性雨!とける!」
「いや溶けはしないだろうけどな!?そこの屋根あるとこ一回入るか!」

 今日は朝から曇りだった。天気予報は曇りのち雨だった。だけど寮でどうしても必要な生活用品と、夕飯の買い出しに行きたくって、「まだ降らなそうじゃない!?今のうちに買い物行くべきじゃない!?」と無理矢理つづるんを引っ張ってきた。つづるんはこういうところ優しいから良い。なんだかんだ気の利くお兄ちゃん気質。今だって重い買い物袋を当たり前のように両方の手に持ってくれている。大人数の寮生活の買い物だから、いつも量が多い。それでも、私には比較的軽いほうの袋を持たせてくれている。けれど、さっきまで曇りだったのに、買い物を済ませ店を出たところで急に雨が降ってきた。慌てて屋根のあるところに駆け込んだものの、二人とも少し濡れてしまった。

「風邪ひかないうちに帰ったら乾かそうね」
「そうだな。…っていうか、しばらく止みそうにないよなあ…荷物も多いのに…はあ」
「あ、溜息つかないつかない!なんとわたくし、ちゃーんと折り畳み傘を持ってきているのです!」
「お。なんだ、準備良いな」
「さすがでしょー、ほめていいよ」
「えらいえらい」

 両手の荷物を一度片方の手に無理矢理まとめてから、肩から斜めにかけていたカバンの中に手を突っ込む。コンパクトなサイズの折り畳み傘がふたっつ入っている。準備がいい。私できる子。笑ってつづるんに褒めてもらえたのでちょっとゴキゲンになりながら取り出そうとして、はた、と気づく。つづるんの両手は重い荷物で塞がっている。片方の肘に荷物をまとめれば傘持てるかもしれないけど、結構な負担がかかるんじゃなかろうか。

「ん?どうした?」
「うん?うーん…うーーん…」
「あ。まさかやっぱり忘れたってオチじゃないだろうな?」

 凄むような声も少し芝居がかっていて、つづるんの分かりやすい優しさが透けて見える。忘れたって言ったって、たぶん怒らないんだろうなと思う。怒るふりはするかもしれないけど、でもやっぱりそれも子供にするようなちょっとした冗談で、仕方ないなあって最後には笑うんだろうなと思った。やっぱりつづるんは優しいから、いい。そういうところが、好きなところ。

「…あのねえ、つづるん。私ね、傘持ってるんだけど、ふたっつ持ってきちゃった」
「……え、ダメなのか?それ」
「うん、あのね、一個しか持ってないってことにしたほうがいいとおもうんだ」

 へ?ときょとんとしたつづるんは本当によくわかってないような顔だったけど、数秒後はっとしたようにちょっと顔が赤くなる。視線が泳いだ。

「つづるん、手塞がってるし差せないでしょ」
「…え、ああ、そういう理由か」
「そういう理由にしときます!」

 だから、相合傘しましょう!って私が赤い折り畳み傘を取り出す。緑の傘はしまったまま。つづるんはまだ少し照れくさそうだけど、笑ってくれる。そうだな、そういう理由にしようか、って。

「こういうのって男が持つもののような…」
「だって重い荷物持ってるんだもんつづるん。私が一個持つ?そんでつづるん傘持ってくれる?」
「や、これ結構重いからなあ。いいよ、俺が持つ。っていうか、頑張れば片手で持てるから。傘もこっちに貸して」
「や、だめだめ!つづるんの細腕に負担をかけたくない!」
「誰が細腕だよ…多少は鍛えてるんですけど!」
「だーめー!さあさ、お入り」
「お入り、って…」

 長身のつづるんがひょいと肩をすくめて、広げた傘に入ってくれる。いや、ほんとう、長身なわけで。「ほらやっぱり。こういうのって背が高いほうが持ったほうがいいだろ」って笑われた。つづるんの頭が傘の骨に当たる。ちょっと背伸びして、「平気!」とえっへん威張ってみる。

「たまにはつづるんもね、傘をさしてもらう立場になったほうがいいと思うの!」
「はあ、そりゃこの身長じゃなかなか味わえないでしょーけど」
「でしょう。つづるんいっつも差すほうだから」

 つづるんってそういうところある。いつも優しくって、気づいたら裏方に回りやすいというか、誰かの傘になっていることがある。つづるんは優しい。そういうの、つづるんのいいところ、好きなところ。でも、たまには、たまにはね、優しい君に、傘をさしてあげたいって思う人がいたっていいとおもうんだよ。

「ん、まあ、そうだな。いいかも、たまには」

 くすぐったいように笑う表情が、いつものお兄ちゃんの表情とは少し違う。あ、ほらね、増えた。つづるんのいいところ。好きなところ。



やさしい雨空