1−2 ははをころした?
ナイフとフォークを握り締めていた。目の前の皿にはパープルサファイアの欠片が盛られている。フォークは刺さらない。ナイフも意味がない。意味がないものを、どうして持っているのだろう。わからない。部屋をぐるりと見回す。誰もいない。誰の呼吸も、しない。長いテーブルの先、わたしの向かい側。一冊の本。わたしはナイフとフォークを手放して、向かいの椅子に座った。蝋燭に照らされた本の一ページ目。わたしの字によく似たもの。
ムルを殺せ
文字を見つめる。なんで? わからない。ムルを殺す理由がない。本当に? ほんとうに、ない? わからない。あるはずがない。だって、わたしとムルは恋人で……。恋人? わたしたち、いつから恋人? でも、わたしはムルと一緒にごはんを食べていた。一緒に暮らしているから。一緒に、暮らしてる? 暮らしていない。ちがう。だって、ムルは母の、母と。わからない。わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。わか、ら、ない。だって、ムルは。
「きみの母親を殺した?」
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