1−3 ワタシ?
ナイフとフォークを握り締めていた。目の前の皿には、パープルサファイアの欠片が盛られている。こんなに食べられないと、私はナイフとフォークを置いた。それから部屋をぐるりと見回す。部屋には誰の呼吸もしない。自分でさえ、生きているのか死んでいるのかわからない。どうしてここにいるのだろう。わからない。わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。わか、ら、ない。
「何がわからないの?」
月明かりを遮るように、ムルがわたしの顔を覗き込んでいた。わたしは首を傾げながら起き上がる。ムルは「、ずーっとわからないって言ってた!」とベッドサイドの椅子に腰掛けた。わからない。何が? なにが、わからないのだろう。
「なんだろ、なんか……夢見てたのかも」
誤魔化すように笑うと、ムルも笑った。ムルはそれ以上何も訊いてこなかった。
「晩ごはん食べる? 俺が作った!」
「ムルが? 何作ったの?」
「ラクレット!」
「好きでしょ」とムルは立ち上がると、わたしの手首を引っ張った。はやく食べようと急かすみたいに。「わたしが起きるの、待ってたの?」、ムルはわたしから手を離すと「そうだよ。がごはんは一緒に食べるって言った!」と今度は手を繋いだ。二人でリビングに向かう。
「、ずっと寝てるから俺お腹ペコペコ」
「ごめんね。起こしてくれてよかったのに」
そう言うと、ムルは「でもは起きたくなかったでしょ?」と首を傾げた。ムルがナイフとフォークを差し出す。わたしはそれに曖昧な返事をしながら、ナイフとフォークを受け取った。ムルが作ったラクレット。パン。ワインもある。完璧な夕食だった。完璧な、私が求めている、欠点のない。本当に? 本当に、わたしが求めたもの? 私が? わたしが? 完璧な、なに?
「……ねえ、ムル」
「なに? 冷めちゃうよ」
「ムル、ラクレット苦手だよね?」
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