3−3 わからないこと
きみの母親は優秀な科学者だった。少し抜けているところがあったけれどね。彼女はやがて人間と結婚して、きみが生まれた。今思えば、あの男は俺に少し似ていたな。彼女はきみを愛していたし、きみを心底可愛がっていたよ。きみが7歳になる頃、夫に先立たれ、それから彼女は一人できみを育てた。彼女は魔女だけれど、きみは人間だ。どうしたって寿命が違う。彼女は恐れたんだ。きみが、自分を置いていってしまうことを。彼女はそれに、孤独に耐えられなかった。だからきみを造った。きみに一度手を掛けて、一から造ることにしたんだ。俺も協力した。面白そうだったから。ずいぶん難航したようだけれどね、何度かの失敗を経て、きみが完成した。きみが目を開けたとき、彼女はとても喜んでいたよ。
機械というのは、役目を終えたら壊されるんだ。きみは役目を終えた。きみの母親はもう居ないだろう。美しいパープルサファイアになった。役目を終えたというのに、きみは壊されることも壊れることもなく、眠り続けた。誰かが手を掛けてやらないと壊れるものだけれど、彼女はきみに魔力を随分注ぎ込んだようだったから、きみは壊れずに眠り続けた。
そうしてきみは俺と再会した。いや、俺は一度魂が砕け散ったから、あれを俺と言うのは、些か不適切かな。俺であって俺でない者とでも言おうか。
きみを見つけた俺は、きみを目覚めさせた。身体が動かなかっただろう。きみは数千年も眠り続けていたから。俺はきみと暮らすことにした。興味があった、というのもある。けれどどちらかといえば、罪滅ぼしみたいなものだな。あれが何を考えてきみと暮らすことにしたのか、俺には理解出来ないけれど、まあ、恐らくそうだろう。罪滅ぼしだよ。彼女の母親に手を掛けた。手を掛けたのはあれではなく俺だけれど。覚えている、或いは思い出したのだろう。きみを見て。きみの母親を殺したのは自分だって。
誤解しないで。好きで手を掛けたわけじゃあない。彼女が死ぬ前、約束をしたんだ。魔法使いが約束をしないのはきみも知っているだろう。でも、俺は約束した。たった一つだけ。
彼女は優秀な科学者だった、彼女の技術は素晴らしかった。俺は彼女に敬意を払っていた。だから約束した。彼女も科学者である自分を誇りに思っていたし、ずっとそうあるべきなのだと言っていたよ。だから彼女は言ったんだ。
「科学者として生きられなくなったら、私を殺して」
ご名答。彼女の脳はほとんど機能しなくなっていた。脳が働かないのは、科学者として致命的だ。だから手を掛けた。
さて、俺の話は終わりだけれど、何かわからないことはあった?